DENONのPCM録音

mozart_1_5_smetana_suk.jpg激しい雨が降る。笹塚で開かれたとある異業種交流会に参加した。久しぶりに・・・。
70名近くの方々が参加されていた中で、穴澤健明さんにお会いした。誰それ?という言葉が返ってきそうだが、クラシック音楽好き、しかも音盤愛好家の中では有名な知る人ぞ知るレコーディング・エンジニアである。もともとは日本コロンビアで技師として数々の録音に関わられたらしいが、DENONレーベルの今は懐かしいスウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリンによる「ベートーヴェン:交響曲全集」やスメタナ四重奏団の3回目の「ベートーヴェン全集」のエンジニアとして解説書にはクレジットされている。
何と70年代の初めにマリア・ジョアン・ピリスを発掘し、録音したのも彼なのだとか。クラシックの演奏家とは相当に親しい間柄なのだろう、レコーディングの舞台裏であるとか、例えばピアニストの表には絶対に見せることのない素顔だとか、これまでご体験された話をほんの少しだが聞かせていただいた。とにかくすべてが興味津々、面白い。早速連絡先を教えていただいたので、近々またお会いして、いろいろと裏話を聞いてみたいと思う。

よくよく振り返ると70年代から80年代のDENONによるPCM録音は名盤の宝庫だ。そのいずれにも穴澤氏が関わっているのかどうかは定かでないが、氏曰く「インバルのマーラー全集は僕が録ったけど、第4番が最高の出来だね」とのこと。そうか、あれも穴澤さんの仕事だったんだ!本当に恐れ入る。と同時に、どこでどういう出逢いがあるかわからない「偶然」というものにも感謝である。今回は仕事に直接結びつくような出会いは少なかったように思うが、こういう趣味の世界(僕にとっては)を語れる、それもレコード芸術の生き証人のような方に出会えたことが何よりも嬉しい。

本当は、ウゴルスキの弾く「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番ほか」のCDを採り上げようと思っていたのだが、穴澤氏に敬意を表して急遽変更。氏がエンジニアとして関わったという音盤を聴く。

モーツァルト:弦楽五重奏曲第1番変ロ長調K.174&第5番ニ長調K.593
ヨゼフ・スーク(第1ヴィオラ)
スメタナ四重奏団

(録音:1983年6月4日-12日 プラハ、ドモヴィナ・スタジオ)
スプラフォンとの共同制作

DENONのPCM録音は昔から定評があった。この名盤もご多聞に漏れず、演奏といい録音といい極めて美しい。17歳の少年が書いた音楽も34歳(それでも最晩年!)にして生み出した音楽も同等の明朗さをもち、人の心を素直に揺さぶる魔法が秘められている。
さすがに、経済的貧困と健康不安の真っ只中にあった頃に書かれた第5番の方にわずかに翳りと憂いをより感じさせる瞬間があるものの、これほど華麗で透明感に溢れる音楽は珍しい。天才はやっぱり生まれながらに天才だった。こういう天下の名盤がわずか1000円で買えることにそもそも感謝しよう。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。
穴澤健明さんとお話されるとは、羨ましいです。
>70年代から80年代のDENONによるPCM録音は名盤の宝庫だ。
同感です。CDだって、インデックス機能を付けたりして、実に丁寧な仕事ぶりで好感を持っていたものです(逆に、今は情けない状況ですね)。
ご紹介の盤は、昔LPで持っていましたので懐かしいです。モーツァルトの弦楽五重奏曲は、学生のころ4番の第1楽章の第1ヴィオラ・パートを学オケのメンバー達との身内の発表会で弾いたりしていましたので、この盤も興味を持ち擦り切れるくらい聴いたものです(もちろん、4番も同じ組み合わせのLPが愛聴盤でした)。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/125191
同時期のベートーヴェンの録音と並んで、スメタナ四重奏団の最後の輝きの記録ですね。
穴澤さんのお仕事かどうかは確認しておりませんが、懐かしのDENONによるPCM録音のCDを、あと3枚・・・。全部今でも、愛聴盤の中の愛聴盤です。
制作スタッフに感謝です。
バッハ 音楽の捧げもの パイヤール&パイヤール室内管弦楽団(1974)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2802897
テレマン 無伴奏オーボエのための12の幻想曲 ホリガー(オーボエ)(1979)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/762089
マーラー 交響曲第10番(クック全曲版) インバル&フランクフルト放送響(1992)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/747278

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
雅之さんはさすがにヴィオラを弾かれるだけあり、DENONの懐かしのLP、特に室内楽などはよく聴かれたんでしょうね。80年代初頭のPCM録音という響きが妙に懐かしいです。
>CDだって、インデックス機能を付けたりして、実に丁寧な仕事ぶりで
そうでしたそうでした。
>同時期のベートーヴェンの録音と並んで、スメタナ四重奏団の最後の輝きの記録ですね。
ほんと素晴らしいですね、あの頃のスメタナQの録音は。そういう現場に携わっていらした方に会えたことはほんとに運が良いなと思います。
>懐かしのDENONによるPCM録音のCDを、あと3枚
あー、これは懐かしい!少なくともパイヤールの「音楽の捧げ物」は穴澤さんが録ったとおっしゃってました。確かエンジニアとしての最初期のものだということです。インバルのマーラーは10番だけ90年代に入ってからの録音ですからねぇ。ひょっとすると穴澤さんは絡んでないのかもしれませんが、僕はこの盤を所有していないので確かめる術がなく・・・。

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