1年半ほど前に「ワークショップZERO」を受講いただいたA君と久しぶりに会った。彼は東京大学大学院在学中からベンチャー企業の立ち上げに参画、そのまま中退し経営陣の一角を担いつつ現場の一線で活躍してきたという逸材である。いろいろとバックグラウンドを聞いてみると、彼の人生はとにかく前向きで、やると決めたことは何でもやり、そして何でも達成してきたというもので、それでいて屈託なく極めて謙虚なのだから話をしていてとても気持ちが良い。
彼曰く、自分がイメージしたことは必ず達成できるのだと。30年生きてきて、勉強でもスポーツでも何でもとことん追及すれば(つまり人より努力すれば)こうだと決めたとおりになってきたのだと。勉強はもちろんのこと野球でもテニスでも成功するための理論があるらしい。特に「運動連鎖」については学問以上に研究したらしく、テニスでもゴルフでもどうすればうまくなるか理論的には完璧に理解できているという。ただし、いわゆるテクニックは「結果として上達する」のであり、人間の内部で起こっている「意思決定」についてはそれぞれ独自のもの(要は思考の癖などは人それぞれだということ)なので、マニュアル的に一律に「教える」ことはとても難しいという話にもなった。確かに、人間教育ひとつとってみてもそうだ。「結果の質」を向上させるためにそこにいる全員に同じやり方で教えたとしても一律に同等に向上するということはありえない。過去の体験然り、思考の質然り、そして環境然り、人それぞれ違うのだから、ひとりひとりと四つに組みながら相手に合わせた方法をとっていかなければ本当の成果は得られないということだろう。
やっぱり幼少時の親の育て方というのが鍵になるようだ。A君も親からは常にほめられていたようだし、やりたいということは何でもチャレンジさせてもらえたということだし。要は潰されていないのだ。
ご子息の千足氏によると、朝比奈隆は家庭では厳格で怖い父親だったらしい。幼い頃一緒になって遊んだり、抱っこしてもらったりという記憶が一切ないらしい。もちろん若き日の朝比奈先生が、新しいオーケストラを作り、その運営だけでなく日本の未来の音楽界をより良くするために奔走、日々苦心されていただろうゆえ、その代償として家庭は奥さん任せで横っちょに置かれていたということなのだろうが・・・。死後発表されたインタビュー記事などを読み、朝比奈父子も晩年になって、否、ひょっとすると先生の死の間際になってやっと確執のようなものがとれたのではないかと感じさせられたことをふと思い出した。
息子ジークフリートを産んでくれたことの労いを込め、妻コージマの誕生日を祝い、ワーグナーが作曲した名曲。その傑作を朝比奈先生が演奏したコンサートのことがまざまざと蘇る。つい先日、特典盤としてだが陽の目を見た音盤。
小さめの編成で室内楽風に演奏されたこの「ジークフリート牧歌」は、メイン・プログラムのブラームス以上に記憶に残る。残暑厳しい夏の一夜、誰のために何を想って演奏したのか、この子守歌のような佳演がその場に居合わせた聴衆の心にすーっと溶け込んでいった。
ちなみに、このセットは日本の様々なオーケストラが演奏したベートーヴェンの交響曲を細切れ編集した異色の「ベートーヴェン交響曲全集」。僕は本編よりもこの特典盤が欲しくて購入したゆえ、ベートーヴェンの方はいまだに聴いていない。
おはようございます。
我が国では、駄目な世襲議員の問題点が話題になって久しいですよね。
本来子供は、親の敷いたレールの上を優等生になって走っているだけではなく、親を乗り越え、ある時には親の期待を裏切ってでも、自分の道を自らが切り開いて行かなければならないものです。
子供をおだて過ぎ、物わかりの良すぎる今の日本の教育のあり方は、これからの厳しい変化の時代に適応したものではないと、私は感じています。
一方で、親が偉大過ぎたりすると、子供にかかるプレッシャーは大変ですよね。朝比奈千足氏には、そういう意味では同情します。
いずれにしても、自分が父親になって初めて、親の気持ちがわかりました。どこの家庭でもそうでしょうが、親子関係というものは、単純に語れるものではないですね。荒んだ家庭から、ハングリー精神をバネに偉大な人物が出現したりもしますし、なかなか事は複雑で、教育の正解はひとつではないと思います。
ご紹介のセット、私は日本のオケに愛着があるので(日本人が日本の演奏家を応援しないでどうする!という意識が根底にある)、継ぎ接ぎの寄せ集めでも、ベートーヴェンの交響曲全集目当てで買いました。勿論、話題の朝比奈先生のブラ1やワーグナーも、聴いて感動させられました。
>雅之様
>子供をおだて過ぎ、物わかりの良すぎる今の日本の教育のあり方は、これからの厳しい変化の時代に適応したものではないと、私は感じています。
同感です。何事もメリハリが大切ですよね。
>なかなか事は複雑で、教育の正解はひとつではないと思います。
まったくその通りです。
なるほど、雅之さんは日本のオケ贔屓でした!
僕もたとえ継ぎ接ぎとはいえ、きちんと真面目に聴いてみないとダメですね。