グールド&バーンスタインのベートーヴェン協奏曲第4番(1961.3.20録音)を聴いて思ふ

協奏曲の録音であろうとグレン・グールドはお構いなしに鼻歌を口づさむ。
それについては、さぞかしレナード・バーンスタインも鼻についたことだろう。
しかし、再生される音楽の有機性、数十年という時を経ても色褪せることのない音質と演奏の類を見ない美しさに指揮者もプレイバックを耳にして思わず納得したのではなかろうか。

ベートーヴェンのト長調協奏曲。
第1楽章アレグロ・モデラート冒頭のピアノ独奏による主題提示からグールドの孤高の世界を示す。徐に和音を弾き出し、どことなく暗い音色を保つその旋律を受け、もったいぶった遅いテンポで管弦楽が引き継ぐ様に他の演奏には感じられない憂愁の念を思う。
清らかな空気と重い湿気が混じるような雰囲気と音色。

胸の鼓動を聞けよとばかり
わが心が日輪に向い
星をおのが同胞と呼び
春を神のメロディーと呼んだ時
森をゆすぶる微風の中に
あなたの霊 歓喜の霊が
心の静かな波となって揺れた時
その時 金色の日々が 私を抱きしめていた
「自然へ」
川村二郎訳「ヘルダーリン詩集」(岩波文庫)P14-15

太陽の如くの熱量を持つ演奏。
無数の星々のように光り輝く生。
そして、フリードリヒ・ヘルダーリンと同年生まれのベートーヴェンという音楽家の生んだ美しい旋律が僕たちを巻き込む。
何て愛らしく、また力強く、優しい音楽であることか。

・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58
グレン・グールド(ピアノ)
レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック(1961.3.20録音)

意外にオーソドックスに進めるカデンツァの、しかしグールドらしい研ぎ澄まされた音楽性に僕は惹かれる。しかし、何より素晴らしいのは第2楽章アンダンテ・コン・モートの悲劇的管弦楽に対応する独奏ピアノの孤独な音。

たかぶり勢う精神。巧みにそれを引き下す
愛。あらけなく押しひしぐ苦悩。
こうして私は一巡する 生の弧線を
そして戻る 私の由来する源へ。
「生の道」
~同上書P24

人間は誰しも孤独に生を得、孤独に旅立ってゆく。グールドもまさにそういう中で孤高の「生の道」を歩んだ。
そして、終楽章ロンド・ヴィヴァーチェの平和な歌!

静かにひびく 天上の
おだやかに渡る音に満ち
風吹き通う 神さびた
至福の住いなる広間。緑の敷物をめぐって香る
喜びの雲。はるかに輝くのは
熟れた果実 黄金花咲く酒盃に溢れ
整然と華やかに連なり
ここかしこ 平らかな床から
傍に高まる宴の卓。
遠くから この夕べの時
心に愛ある客人が
訪れてくることに きまっていたのだ。
「平和の祭」
~同上書P162-163

グールドのベートーヴェンは何だかとても文学的。
それも、散文的でなく、どちらかというと韻文調。嗚呼、美しい。

 

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2 COMMENTS

雅之

>人間は誰しも孤独に生を得、孤独に旅立ってゆく。グールドもまさにそういう中で孤高の「生の道」を歩んだ。

同感です。

「ほかの人間と1時間いると、それをX倍した時間だけひとりになる必要がある・・・孤独は人間の幸福に欠かせない要素だ」とのグールドの言葉はネットから容易に拾えますが、一人っ子だった私としてはとても共感しています。

また、いつかもご紹介しましたが、続けてグールドは次のようにも語っていましたね(Fake). 。

「時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、
つかの間、彼は自分勝手になり、自由になる。
誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為、
この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒し、と言えるのである」

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B0%B7%E5%8F%A3%E3%82%B8%E3%83%AD%E3%83%BC

https://www.amazon.co.jp/%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%81%AE%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%A1-%E3%80%90%E6%96%B0%E8%A3%85%E7%89%88%E3%80%91-%E4%B9%85%E4%BD%8F-%E6%98%8C%E4%B9%8B/dp/459405644X/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1486857859&sr=1-2&keywords=%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%81%AE%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%A1

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岡本 浩和

>雅之様

考えてみれば、寝ることも食べることも孤独な作業ですよね。
しかしまたその独りであることに喜びと癒しがあるのだと僕もお思います。
週末、山にこもっていたので谷口ジローさんが亡くなったことを知りませんでした。
ありがとうございます。

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