ヨーロッパ・コンサート2002

先日の第2回早わかりクラシック音楽入門講座のこと。
第1期からご参加いただいている方が半分いらっしゃるせいか、講座そのものはとても和気藹々と進行してゆく。休憩時間ともなると音楽以外の話でも盛り上がったりするのだが、ちょうどドヴォルザークがアメリカに赴任した時に、祖国に対しての望郷と新世界における挑戦とが錯綜し、様々な素晴らしい音楽が生み出されたのだというようなお話をさせていただき、自分が滋賀県の信楽という陶器で有名な田舎町だということを紹介したことに反応された淑女が、もうかれこれ45年ほど前に訪れたことがあるということで、その時いくつも陶器を買い込んでいまだにそれを使っているんですということをおっしゃられた。「とても美しくて良いところですね」という言葉に対して、「いやあ、子どもの頃、若い頃は都会に出たくて仕方がなかったんです」と返したら少しばかり吃驚された様子で(笑)、それは観光で訪れたらば確かに空気もきれいで景観も良く、良いところだと思われるだろうけど、少なくとも血気盛んな若い頃はそんな思いなどほとんど持てないものなんですよと笑い話になった。まぁ、年をとるにつれ都会の喧騒から離れ、山奥で過ごしてみるのもいいものだとも思えるようになるのだから若いときというのは誰しもそういうものなのだろう・・・。

ところで、ドヴォルザークが新天地に赴任したのが51歳の時だから、若いどころか当時としてみればもう老境一歩手前と言ったところだろうか。都会生活に対してのいろんな不安もあったろう(何せ摩天楼聳え立つニューヨークですから。しかし、汽車好きのドヴォルザークにしてみれば自分が見たこともない機械を見たり、機関車に乗ってみたいという不純な動機もあっただろうし)。何度も固辞し、ようやく何度目かの説得でようやく首肯し、3年弱の音楽院長としての責務を全うするべくアメリカ大陸に渡ったという経緯。
とはいえ、そのお蔭で後世の我々は素晴らしい傑作に出会えるという恩恵に浴することができるのも確かで、人間誰しも冒険はするべきものなんだとこういうところでも実感させられるのだから面白いもの。それにしても「アメリカ」四重奏曲もチェロ協奏曲も「新世界」交響曲も、本当に何度聴いても素敵な音楽だ。

ヨーロッパ・コンサート・フロム・パレルモ2002
・ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」序曲作品84
・ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77
・ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」
・ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲
ギル・シャハム(ヴァイオリン)
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(2002.5.1Live)

ベルリン・フィルのヨーロッパ・コンサートの模様。先日の講座ではこのBDをメインとして採り上げた。安定感のあるオーソドックスなブラームスでありドヴォルザークである。入門者がこれらの楽曲を知るにはうってつけの映像ではなかろうか。

ブラームスのコンチェルトに関してはこれまで実演でも何度も触れ、そのたびに感動させられたり失望させられたりした。演奏者の力量によってこれほどまでに優劣がはっきりする音楽はなかなかないようにも思うが、ギル・シャハムの演奏はかつてのヘンリク・シェリングのそれを思わせ、実に聴いていて心地良い。おそらくアバドの考えもだいぶ入っているのだろうけれど。
「新世界」交響曲についても然り。ある意味音楽しか感じさせないもので、何度も聴くには物足りなさを覚えないではないが、楽曲を知る上では第1に推せるもの。
ちなみに、講座で比較視聴のため第4楽章だけチェリビダッケ&ミュンヘン・フィルのものを観た(どの楽章を観てみたいか参加者にアンケートをとったところ圧倒的にフィナーレが多かった)。率直に思ったこと。やっぱりチェリビダッケは凄いと。残念ながら格が違い過ぎることが露呈されたようなものだった(1991年当時のミュンヘン・フィルの腕も半端でない)。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。

このあたりのアバド&ベルリンPOの映像は、じつはDVD初出当初から全部持っていて、何回も何回も随分堪能しています。ご紹介の演奏もシャハムも含めて名演だと思いましたし、アバドが大病を患った直後のベートーヴェンの交響曲全集の映像(第9のみ大病前)は、さらに乗りに乗った素晴らしい演奏(率直に言ってティーレマン&VPOより何倍も好き)で、これは同時期のセッション録音を聴いてても絶対想像できません。アバドもライヴの人だとつくづく実感します。

何故、これらのライヴ映像を、野暮な精神論や比較論を振りかざさず楽しめるかというと、ひとつには、オケの楽員の立場になって視聴しているからだと思います。

若いベルリンPOの面々が、じつに楽しそうに演奏しているのがよくわかります。もし自分が弾く立場なら、こんな雰囲気の中だったら本当に幸せだろうなあと、うっとりと憧れの目で観ているのです。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>アバドが大病を患った直後のベートーヴェンの交響曲全集の映像(第9のみ大病前)は、さらに乗りに乗った素晴らしい演奏(率直に言ってティーレマン&VPOより何倍も好き)で

なるほど、そうなんですね。一度じっくりと確認する機会を持ってみたいです。
アバドがライブの人だというのはわかる気がします。

>ひとつには、オケの楽員の立場になって視聴しているからだと思います。

確かにそういう視点で見てみると違うかもですね。ありがとうございます。
勉強になります。

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