スピノジ指揮アンサンブル・マテウスほかヴィヴァルディ「オペラ・アリア集第2巻」を聴いて思ふ

春めく季節に心が晴れる。
勢いよく高揚する魂。アントニオ・ヴィヴァルディの音楽に鼓舞される。
彼のオペラ作品は最近になってようやく脚光を浴びるようになったのだろうか。それらは数多の協奏曲や室内楽曲に優るとも劣らぬ逸品揃い。中でも、多様なアリアに含まれる様々な感情、豊かな感性に感動を覚えるほど。
ちなみに、35歳からの10年間は、ヴィヴァルディのオペラ作曲家としての期間。

ピエタ音楽院のそれまでのmaestro di coroだったガスパリーニがその職を離れたので、ヴィヴァルディがその後継となって不思議はなかったのに、彼はそれまでの地位(maestro de’ concerti)にとどまりながら、俄然オペラ作曲家として活躍し始めたのであった。1714~18年のあいだに、ヴェネツィアだけで10曲ものオペラを上演したのである。しかも、1715年にヴェネツィアを訪れたある旅行者の目には、ヴィヴァルディの活動ぶりはオペラ興行師さながらに映ったのであった。
作曲家別名曲解説ライブラリー21「ヴィヴァルディ」(音楽之友社)P11-12

泉の如く楽想が湧いたのだろう。どれも似たような音楽だと言うなかれ。
彼の生み出したオペラのアリアには何より「歌」があり、清い「情動」がある。

ヴィヴァルディ:オペラ・アリア集第2巻
・歌劇「アルジッポ」RV 697~第1幕「まだ光が遅いなら」
ロミーナ・バッソ(コントラルト)
フェデリコ・マリア・サルデッリ指揮モード・アンティクォ(2008.5録音)
・歌劇「怒れるオルランド」RV 728~第1幕「そなたの下でだけだ、愛しい人よ」
フィリップ・ジャルスキー(カウンター・テナー)
ジャン=クリストフ・スピノジ指揮アンサンブル・マテウス(2012.7録音)
・歌劇「貞節なニンフ」RV 714~第1幕~「アルマは残酷な運命に苦しめられて」
サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
ジャン=クリストフ・スピノジ指揮アンサンブル・マテウス(2008.4-5録音)
・歌劇「アテナイデ」RV 702~第3幕Cor mio che prigion sei
ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
フェデリコ・マリア・サルデッリ指揮モード・アンティクォ(2007.4録音)
・歌劇「グリゼルダ」RV 718(抜粋)
マリー=ニコル・ルミュー(コントラルト)
ジャン=クリストフ・スピノジ指揮アンサンブル・マテウス(2005.11録音)
・歌劇「貞節なニンフ」RV 714~第2幕「ああ、あなたは身をかがめ」
トピ・レティプー(テノール)
ジャン=クリストフ・スピノジ指揮アンサンブル・マテウス(2008.4-5録音)
・歌劇「グリゼルダ」RV 718~第2幕「このティラナの掟」
フィリップ・ジャルスキー(カウンター・テナー)
ジャン=クリストフ・スピノジ指揮アンサンブル・マテウス(2005.11録音)
・歌劇「怒れるオルランド」RV 728 ~Amorose ai rai del sole
ジェニファー・ラーモア(メゾ・ソプラノ)
ジャン=クリストフ・スピノジ指揮アンサンブル・マテウス(2012.7録音)
・歌劇「館のオットーネ」RV 729~第1幕「嫉妬」
ユリア・レージネヴァ(ソプラノ)
ジョヴァンニ・アントニーニ指揮イル・ジャルディーノ・アルモニコ(2010.5録音)
・歌劇「アテナイデ」RV 702~第3幕「不実なアルミードは私に教えてくれる」
ステファノ・フェッラーリ(テノール)
フェデリコ・マリア・サルデッリ指揮モード・アンティクォ(2007.4録音)
・歌劇「アテナイデ」RV 702~第1幕「私の過ちとはどんな」
ヴィヴィカ・ジュノー(メゾ・ソプラノ)
フェデリコ・マリア・サルデッリ指揮モード・アンティクォ(2007.4録音)
・歌劇「狂乱のオルランド」RV Anh. 84(抜粋)
デイヴィッド・リー(カウンター・テナー)
リッカルド・ノヴァーロ(バリトン)
フェデリコ・マリア・サルデッリ指揮モード・アンティクォ(2004.6録音)
・歌劇「テウッツォーネ」RV 736~第1幕「なんと苦しい恐怖」
デルフィーヌ・ガルー(コントラルト)
パオロ・ロペス(男声ソプラノ)
ジョルディ・サバール指揮ル・コンセール・デ・ナシオン(2011.6録音)
・歌劇「ファルナーチェ」RV 711~第2幕「すべての血管で凍えるような血が」
フリオ・ザナージ(バリトン)
ジョルディ・サバール指揮ル・コンセール・デ・ナシオン(2001.10録音)
・歌劇「グリゼルダ」RV 718~第2幕「ツバメの恋人」
イェスティン・デイヴィス(カウンター・テナー)
ジャン=クリストフ・スピノジ指揮アンサンブル・マテウス(2005.11録音)
・歌劇「エジプト戦場のアルミーダ」RV 699~シンフォニア
リナルド・アレッサンドリーニ指揮コンチェルト・イタリアーノ(2009録音)

光と水の饗宴。まるで、タルコフスキー映画にある情念から暗黒を取り去ったような光輝。
何よりすべてが鮮烈。血の滾る旋律が強力なアタックを伴って弾ける。
喜びも悲しみも、あるいは怒りも、ヴィヴァルディの音楽によって美しく音化される。それにしてもスピノジの音楽作りの巧みさ。2年ほど前に実演を聴いたとき、その才能に目を瞠ったけれど、確かに彼のヴィヴァルディを聴くと、内在するパッションとエネルギーの確かさに舌を巻く。素敵だ。

廃墟
人間は精神の偉大さを目指さなければならない。カタストロフィの用例のなかでのみ言及される廃墟ではなく、その後、何千年にわたって、他の人々が解読しようとするようなものを残さなければならない。
~月刊イメージ・フォーラム1987・3月増刊No.80追悼・増補版「タルコフスキー、好きッ!」(ダゲレオ出版)

 

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2 COMMENTS

雅之

>人間は精神の偉大さを目指さなければならない。カタストロフィの用例のなかでのみ言及される廃墟ではなく、その後、何千年にわたって、他の人々が解読しようとするようなものを残さなければならない。

タルコフスキーは、チェルノブイリや福島第一(汚染水!)を明らかに予見していたようなところがありますから、優れた芸術は、ある意味科学を超えていますよね。

>光と水の饗宴。

ヴィヴァルディの音楽も、彼が生きた小氷期という気候が生んだ、明るさへの憧憬という気がしています。

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岡本 浩和

>雅之様

>優れた芸術は、ある意味科学を超えていますよね。

同感です。

>ヴィヴァルディの音楽も、彼が生きた小氷期という気候が生んだ、明るさへの憧憬という気がしています。

まさに!土地と時代は芸術と切っても切れないものですね。

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