共感-年の功

grofe_dorati.jpg人それぞれの価値観は千差万別。ある人の「考え」や「感覚」にたとえ1割でも共感できる部分があるとするなら、それは上出来である。それくらいに人間の持つ「センス」というのは違うものである。
ここのところ「共感」についてしばしば考える。ひとつには、「ワークショップZERO」のテーマでもあるから。2日間の本コースでも然り、2時間のショートコースでも然り、人と人とがコミュニケーションをするにあたり、相手にいかに共感できるかが大きな鍵だということを口酸っぱくお伝えする。しかしながら、「共感」とは単なるスキルではない。どんなに術を伝授してもらっても心底「共感」できるために重要なポイントがある。それが、喜怒哀楽を前提とした体験であり体感なのである。要は、人間と対峙し、泣き、笑い、あるいは挫折し、成功し、という経験なくして真の「共感」はありえないのだ。いかにそのデータベースを増やすかがポイントである。
そして、もうひとつは、とある企業から「企業理念」を全従業員の間に浸透させるための研修ができないかというオファーがあったこと。「企業理念」の浸透には、会社のトップへの「共感」がこれまた重要な要素となる。組織内の「共感」は対個人のそれ以上に難題だ。
「さて、どう斬り込むか?」・・・本日そのことについて一日熟考。

20年近く前に、僕は知人とともにグランド・キャニオンを訪れた。ロサンゼルスからハイウェイをすっ飛ばし、ラス・ヴェガスのカジノで遊興後、かの大峡谷に到着する。セスナで上空をぐるりと旋回し、この美しい大自然の神秘を堪能した。今でもたまに遊覧中に墜落事故があるらしいが、その時も何だかアクロバティックな飛行で、心臓がドキドキしたことを思い出す(基本的にビビリなのである・・・苦笑)。とはいえ、夕闇迫る黄昏時の世界遺産の眺めは吃驚するほど美しかった。

1928年1月から4ヶ月にわたって、モーリス・ラヴェルはアメリカ・カナダ演奏旅行を敢行する。エドガー・アラン・ポーの家を訪ね、ナイアガラの滝を見物し、もちろんグランド・キャニオンも観光した。バルトークとも再会し、ガーシュウィンやクライスラーとも知己を得た。そして、ハーレムでジャズを聴き、多大なる影響を受けた。

「・・・今回の旅によって、アメリカ音楽の真の楽派を徐々に形成することに貢献している諸要素をよく知ることができただけに、その喜びはなおさら深いものでした。この楽派が最終段階において有名になるであろうことを、私は露ほども疑っておりません。そして、この楽派は、あなた方がヨーロッパ人と違うように、彼らの音楽とは異なる国民的な表現を実現するものだと確信しています・・・」(現代音楽についての公開講演~「ラヴェル-生涯と作品」アービー・オレンシュタイン著

・グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」
・コープランド:エル・サロン・メヒコ
・コープランド:市民のためのファンファーレ
・コープランド:バレエ音楽「ロデオ」より4つのエピソード
アンタル・ドラティ指揮デトロイト交響楽団

アメリカ音楽の一点の曇りもない「馬鹿馬鹿しさ」-いや、「陽気さ」と訂正しておこう-は、本来僕とは相容れないものだが、蒸し暑い最中の今頃、ボーっとした頭を冷やすのにちょうど良い。グローフェのこの名曲も、かつて訪問した記憶をまざまざと蘇らせてくれるものだし、ロック音楽にアレンジされたコープランドの名曲たちもこの頃は大いに共感できる。僕もだいぶ歳をとったようだ・・・。ドラティ&デトロイト響の演奏も秀逸。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
このころのドラティ指揮デトロイト響のCD、どれもいいですよね!
デトロイトは自動車産業の町で有名ですが、昨今の経済危機の中で、このオケの経営は大丈夫なんでしょうか?ちょっと心配です。
コープランドのCDでは、私はMTT&サンフランシスコ響の演奏によるものが好きです。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1502472
>1928年1月から4ヶ月にわたって、モーリス・ラヴェルはアメリカ・カナダ演奏旅行を敢行する。
>そして、ハーレムでジャズを聴き、多大なる影響を受けた。
現代のラヴェル「ヴァイオリン・ソナタ」、「ピアノ協奏曲」、「左手のための・・・」などの演奏では、もっとジャズの表現を取り入れてもいいと思っています。「ボレロ」だって、サックスやトロンボーンなど管楽器のメンバーを中心に、ヴィブラートやグリッサンドなどを、もっとジャズっぽくやったら面白いと思います。佐伯茂樹氏も自著『名曲の「常識」「非常識」』(2002年 音楽之友社)で、
「・・・・・・現在の《ボレロ》の演奏はマニュアル化し、ミスをしないことだけが評価の対象になっている。だが、本来ならばミスをしなかったトロンボーンに対して一際大きい拍手を送るのは裏方や同僚の仕事であって、観客はもっとも面白い演奏をしたソリストに対して拍手を送るべきであろう。
 一度どこかのオーケストラで、ジャズ・プレーヤーを座らせ、客にも曲の途中で自由に拍手させるような《ボレロ》のコンサートを開いてもらえないだろうか?このような試みから、新たな面白いボレロの可能性が生まれるかもしれないのだから・・・・・・。」
と書いておられますが、私もこのご意見に大賛成です。
最近私がそういった新たな着眼点で感心したラヴェル演奏では、ファジル・サイ&パトリシア・コパチンスカヤ による「ヴァイオリン・ソナタ」のCDがありました。これはジャズが流れる安酒場の雰囲気が濃厚な、斬新で且つもの凄い演奏でした。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2755186
これは、ぜひ、実演を聴いてみたいコンビです。
ところで、私は山下洋輔さんの実演で「ボレロ」を聴いていますが(CDにもなっている)、
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000WZO5XG/cameratatamak-22
この演奏もじつに面白くてよかったですよ。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>コープランドのCDでは、私はMTT&サンフランシスコ響の演奏によるものが好きです。
この音盤は未聴なので、聴いてみようと思います。
>「ボレロ」に関する佐伯茂樹氏のご意見、もっともですね。ジャズ的アプローチの「ボレロ」はさぞかし面白いだろうと想像します。
>ファジル・サイ&パトリシア・コパチンスカヤ による「ヴァイオリン・ソナタ」のCD
これは以前雅之さんからお借りしたものですよね。良かったですね、あれは!
>ジャズが流れる安酒場の雰囲気が濃厚な、斬新で且つもの凄い演奏
そう、ぴったりの表現です!僕も同じく実演に触れてみたいです。
>私は山下洋輔さんの実演で「ボレロ」を聴いていますが
実演を聴かれたんですか!!羨ましい!!
僕は20年くらい前に、一度彼の「ボレロ」を聴くチャンスを逃してしまってるんですよね。確か仕事の都合で。しかも、クローズド・イベントだったので、一般にはもちろん販売されませんでした。その会に行った友人は卒倒しておりました(笑)。悔しかったことを覚えています。
しかし、このCDをみると、つい最近「ボレロ」を再演したんですね・・・。知りませんでした(涙)。

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もっち

お疲れ様です。
4日ほど前から組織内の共感について、考えていますが答えに行き着きません。
そのヒントをいただけないかと、電話をかけるタイミングをはかっていました。
一人の先輩に共感しようとしますが根本的な考えが違うため話になりません。

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岡本 浩和

>もっち
お疲れ様。グッド・タイミングね。
共感の前にまずは理解することが大切だね。
根本的な考えが違う人間関係は社会では当たり前のようにあるので、ストレスフルにならないようよく話を聴きましょう。

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