アバド指揮ベルリン・フィルのモーツァルト「リンツ」交響曲ほか(1994.12Live)を聴いて思ふ

1783年10月末からわずか1週間ほどで書き上げられた「リンツ」交響曲。
僕はこの交響曲をことのほか愛する。
隅から隅まで本当に美しいと思う。
直前の交響曲から、光と翳の絶妙な対比を一段と増し、音楽は急速に内省的な雰囲気と哲学的響きを醸すようになる。そこには、ようやく父との溝が埋まりつつある安堵と、それに伴う創造への自信が反映されているのかも。

1783年10月、コンスタンツェ・ウェーバーとの(祝福されない)結婚の後、モーツァルトは約3ヶ月ザルツブルクに帰省した。

・・・今度はお父さんのおかげで、すっかり安心しました。そして8月には、おそくとも9月には、きっと参ります。・・・それまでに庭にボーリング場を作らせておいてください―妻がそれが大好きなのです。妻は、お父さんのお気に召さないのではないかと、いつも少しばかり心配しています。綺麗でないからです。でも、最愛のお父さんは外面の美しさより心の美しさを重んじる人だから、と言って、できるだけ慰めてやっています。・・・
(1783年7月12日付、父レオポルト宛)
~柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」(岩波文庫)P97

モーツァルトは、何とか両親に妻のことを認めてもらおうと必死だった。もちろんコンスタンツェ自身も・・・。

クラウディオ・アバドがベルリン・フィルと録音した「リンツ」には、真面目さと遊びの精神が錯綜する。いかにもアバドらしい実直かつ洗練された表現。序奏をもつ第1楽章の優しい歌、また、第2楽章アンダンテの魅力的な旋律。終楽章プレストも前進的で素晴らしい解釈なのだが、残念ながら第3楽章メヌエットのテンポがいかにもせせこましいのが僕好みではない・・・。

モーツァルト:
・交響曲第23番ニ長調K.181(162b)
・ヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲変ホ長調K.364(320d)
・交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」
ライナー・クスマウル(ヴァイオリン)
ヴォルフラム・クリスト(ヴィオラ)
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1994.12.1-3Live)

一方、協奏交響曲が書かれた頃の、モーツァルトの父宛手紙。

最愛のお父さんに誓って申し上げますが、今ぼくが楽しみにしているのは、(ザルツブルクへ行くことではなくて)お父さんのところへ行くことです。それは、最近のお手紙で、お父さんがぼくを、前よりもよく分かって下さることが確かになったからです!―長いこと帰路につくことをためらっていたことも、友達のベッケにすっかり心を打ち明けていたのpで、とうとう隠しきれなくなった悲しみも、元はと言えば、ただただそのこと(父の理解)が疑われたからです。
(1779年1月8日付、ミュンヘンから父レオポルト宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(上)」(岩波文庫)P221

父と子の人間模様。いわばその駆け引きの面白さ。
ヴァイオリンとヴィオラの独奏は、そんな父と自身との駆け引きを表わすかのように、ある瞬間は丁々発止ぶつかり、またある瞬間は美しく調和する。特に、第2楽章アンダンテの憂い!!(ただし、ベルリン・フィルは極めて機能的ゆえなのか、整理整頓され過ぎていて深みに欠けるのだが)

 

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