今夜は随分暖かい。
早朝稽古に出ると夜明けが早くなったのもよくわかる。眩しい太陽と春めいた空気と。こういう時こそ逆に気を引き締めていきたいもの。
ここのところ、ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」を中心に周辺の気になる作曲家や同時代の音楽を集中的に聴いてきた。いろいろと聴いてみて思うのは、ショスタコーヴィチのずば抜けた創作能力と同時に様々な要素を吸収してオリジナルの語法を生み出すセンスがぴか一だということ。とにかく奥深いゆえ一筋縄ではいかず、今後も、というより一生涯かけて研究、聴き続けなければならない天才だとあらためて確信する。
明後日の研修の準備で本日はほぼ缶詰。落ち着いたところで音楽を。
せっかく気候も良くなってきたのだから、今日のところはがらりと気分を変えてイタリア・オペラでも。ロリン・マゼールがスカラ座を振って収録した「椿姫」のBlu-ray。
僕にしては珍しく冒頭の序曲から夢の中(笑)。そういえば、先日の「早わかりクラシック音楽入門講座」の際、とあるご婦人が初めてヨーロッパに行ったとき、パリ・オペラ座で「椿姫」を観て以来オペラの虜になったとおっしゃっていた。本年最初の講座で「ヴェルディとワーグナー」がテーマだったから楽しみにしていたのだけれど仕事の関係で参加できなかったと地団駄踏んでおられたのが印象的。オペラ、それもヴェルディのオペラとなると万人を惹きつける魅力に富むのだから本当に凄い。僕はそういう至高の芸術を若い頃ほとんど無視してきたのだから、クラシック音楽愛好家の風上にも置けない罪人だとここのところ自認する(笑)。
冗談はさておいて、隅から隅まで音楽は美しく、舞台も壮麗かつ見事で、ここにはイタリア・オペラの醍醐味のすべてが詰まっている。久しぶりに「椿姫」を観て感動した。
何とも落ち着いた、奇を衒わない演出が良い。
それと(歌手が素晴らしいのは当然なのだけれど)何よりマゼールの指揮が素晴らしい。指揮姿を見ていても余裕があるし、軽々と「音楽」を紡ぎ出しているという老練の棒が壮年期とまた違った雰囲気を醸す。
ちなみに、「椿姫」にまつわる興味深いエピソードがある(「スタンダードオペラ鑑賞ブック2」参照)。
「椿姫」のヒロインであるヴィオレッタにはモデルとなった女性がいて、それは原作者のアレクサンドル・デュマ・フィスの恋人だったマリー・デュプレシだということと、そのマリーは、ある時期フランツ・リストと恋人同士だったという驚きの事実(当時のヨーロッパ世界の芸術界は本当に狭かったのだろう)。
2人の出会いは1845年に芝居が上演されていたある劇場のロビーで。以後、何度か顔を合わせることで互いに急接近(ある時は彼女のピアノ教師として、そしてある時は愛人として)。マリーはちょうどこのころデュマ・フィルと別れた頃で、一方のリストもマリー・ダグー伯爵夫人との同棲生活に終止符を打ち自由の身になっていたから余計に一瞬で燃え上がったのだろう。
とはいえ、その恋はわずか数ヶ月で終わった。当時リストは世界中から引っ張りだこのスーパースターだったから。2人の関係もいつの間にか有耶無耶になったようである。
真にプレイ・ボーイ、フランツ・リストらしい逸話なり。
おはようございます。
ご紹介BDは未視聴ですが、「椿姫」は近年ネトレプコのDVD
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3-%E6%AD%8C%E5%8A%87%E3%80%8A%E6%A4%BF%E5%A7%AB%E3%80%8B%E5%85%A8%E6%9B%B2-DVD-%E3%83%8D%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%97%E3%82%B3-%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%8A/dp/B000FDF1BA/ref=sr_1_7?s=dvd&ie=UTF8&qid=1329858289&sr=1-7
も大評判でして、私もそっちを買って楽しみました。
このオペラは長さも程々ですし、比較視聴は楽しそうです。ぜひご紹介のBDを手に入れて、やってみたいです。
>雅之様
こんにちは。
ご紹介の映像は観ておりませんが評判良いですよね。
僕も比較してみたいと思います。
ありがとうございます。
[…] 講座で「ラ・トラヴィアータ」(アンジェラ・ゲオルギュー主演のスカラ座での舞台を収録した映像)を鑑賞いただいた。今回はとにかく全曲を観ていただきたく思い、僕の話はほんのわずかで終えた。時間を大幅にオーバーしてほぼ全曲(最後の1,2分が会場の関係でどうしても枠に収まり切らなかった)。皆さん微動だにせず釘づけ。やっぱりイタリア・オペラというのは日本人好みなのかな・・・。「現在」を舞台に、登場人物も「人間」で、しかもわかりやすい三角関係など恋愛を主題にしたものだから、老若男女問わず誰でも楽しめるというのがポイント。どちらかというと僕自身はもっと重厚で哲学的なワーグナーの世界を好むが、比較してみると音楽的重量も物語的重量も全く正反対といっていいほど異なるのに聴後の充足感にさほどの差異はない。若い頃はヴェルディなど毛嫌いしてどうにも避けていたのだけれど、実際に幾度もステージや映像に触れてみると面白さも十分に伝わり、舞台芸術としての完成度も高く、まったく侮れないことがわかる。 […]