クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭管のワーグナー「パルジファル」(1958Live)を聴いて思ふ

仏門というのは女に厳しい。
しかし、今や「女性の時代」だ。確実に世界は進化、深化している。
「タテの関係」から「ヨコの関係」に移行すべく個々が努力するべき時期がまさに来たのだろうと僕は思う。

1958年の「パルジファル」。
第2幕、レジーネ・クレスパン扮する、鬼気迫るクンドリの叫びが最もリアルな舞台。この壮絶な、魂からの言葉が聴く者の肺腑を抉る。何よりバイロイト祝祭管弦楽団の、他の年にはない、類を見ない管弦楽のパワー。前年からの歌手陣の大幅変更が影響しているのかどうなのか、ここでのオーケストラの切迫する、また異様な熱量を放出する力量に舌を巻く。

われわれはワーグナーを、最も深いドイツの心情の表現であると感じているが、このドイツの心情が美学論風のスノビズムによって侮辱されるのを見過ごすことはできない。トーマス・マン氏のリヒャルト・ワーグナー記念講演において、まさにそうした侮辱が、はなはだ不遜な思い上がりによってなされてしまったのである。
P39-40
奥波一秀「ナチス政権下の政治と芸術・上―クナッパーツブッシュの『二重の芝居』」
~みすず464(1999年11月号)

クナッパーツブッシュはワーグナーを心底尊敬する。
彼の幾種にも及ぶ「パルジファル」がいずれも偉大な所以は、その根本的姿勢、あり方にあるのである。

・ワーグナー:舞台神聖祭典劇「パルジファル」
エーベルハルト・ヴェヒター(アンフォルタス、バリトン)
ヨーゼフ・グラインドル(ティトゥレル、バス)
ジェローム・ハインズ(グルネマンツ、バス)
ハンス・バイラー(パルジファル、テノール)
トニ・ブランケンハイム(クリングゾル、バス)
レジーヌ・クレスパン(クンドリ、ソプラノ)
フリッツ・ウール(第1の聖杯騎士:、テノール)
ドナルド・ベル(第2の聖杯騎士、バス)
クラウディア・ヘルマン(4人の小姓、ソプラノ)
ウルズラ・ベーゼ(4人の小姓、ソプラノ)
ゲルハルト・シュトルツェ(4人の小姓、テノール)
ハラルト・ノイキルヒ(4人の小姓、テノール)、ほか
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団(1958Live)

また、第3幕「聖金曜日の奇蹟」に辿り着く快感。
念という言い方はおそらく相応しくないのだろうが、パルジファルを演ずるハンス・バイラーの思い入れある歌唱がとにかく素晴らしい。

(泉からそっと水を汲み、まだ目の前に跪いているクンドリの方に身をかがめ、頭を濡らす)
これぞ、わが最初の務め。
洗礼を受け
救済者を信じよ!

クンドリは頭を深く地面に垂れる。激しく泣いている様子―パルジファルは背景を振り返り、いまや昼近くの陽光に輝いている森や野原をうっとりと眺める。

今日は草原がなんと美しく見えることか。
これまでにも不思議な花たちに出会い
首に絡みつかれたこともあったが、
こんなに穏やかでやさしい
草や、蕾や、花は見たことがない。
すべてがういういしい香りを放ち
これほど人なつこく語りかけてきたことはない。
日本ワーグナー協会監修/三宅幸夫・池上純一編訳「パルジファル」(白水社)P97

覚醒とは自然と一体になることなのだとあらためて思う。
年を追うごとに深みを増すクナッパーツブッシュの「パルジファル」。何より、1958年のバイロイトの録音の生々しさ(特に、グルネマンツが「真昼となりました。刻限です―さあ、しもべが御案内つかまつりましょう」と語る以降の管弦楽!!)。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村

2 COMMENTS

雅之

>今や「女性の時代」だ。

今更言うまでもなく、男からの視点と女からの視点は異なっています。

コジマ・ワーグナーから見たリヒャルト・ワーグナーっていうのがじつに興味深くて、ゆっくりとしたペースで続きの刊行が予定されている(全10巻の予定)、「リヒャルト・ワーグナーの妻 コジマの日記」(東海大学出版会)を読むことに私もハマっています。ここには、紛れもなく妻から、いや女から見た一人の男の赤裸々な姿が描かれており、新鮮な発見に満ちています。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%A6%BB-%E3%82%B3%E3%82%B8%E3%83%9E%E3%81%AE%E6%97%A5%E8%A8%98%E3%80%882%E3%80%89-%E3%82%B3%E3%82%B8%E3%83%9E-%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%8A%E3%83%BC/dp/4486018516/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1492890037&sr=1-1&keywords=%E3%82%B3%E3%82%B8%E3%83%9E%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%8A%E3%83%BC

「漱石の思い出」夏目鏡子(述) 松岡譲(筆録)(文春文庫) と、つい対比したくなります。

https://www.amazon.co.jp/%E6%BC%B1%E7%9F%B3%E3%81%AE%E6%80%9D%E3%81%84%E5%87%BA-%E6%96%87%E6%98%A5%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%A4%8F%E7%9B%AE-%E9%8F%A1%E5%AD%90/dp/4167208024/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1492891022&sr=1-1&keywords=%E6%BC%B1%E7%9F%B3%E3%81%AE%E6%80%9D%E3%81%84%E5%87%BA

昨年観たNHKのドラマの中で、「真田丸」と並び私が高く評価しているのは、「夏目漱石の妻」(脚本 池端俊策 岩本真耶)。 非常に説得力のある漱石像に魅せられました。漱石を演じた長谷川博己さんが、朝日新聞とのインタビューの中で次のように語っていたのを最近読んだことも、印象に残りました。

「(漱石で)好きな作品は『道草』。ドラマの原作である鏡子さんの『漱石の思い出』と同じ時期を描きながら、男と女でこれほど見方が違うんだなと」(朝日新聞デジタル 2017年4月3日配信記事から)

>覚醒とは自然と一体になることなのだとあらためて思う。

貴方にしろトランプ大統領にしろ、ワーグナーにせよ漱石にせよ、女にせよ男にせよ、最初から自然の一部にしか過ぎません(笑)。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

「コジマの日記」については、最高の資料であり、文献だと僕も思います。
第3巻以降が発刊されず、随分待たされているので、果たして10巻まで本当に行き着くのか心配でなりません。
もう何よりリリースが待ち遠しいです。

ちなみに、「漱石の思い出」は未読で、しかもNHKのドラマも観ておりませんで、残念ながら今の時点で比較できないのですが、面白そうですね。これは何としても読んでみようと思います。少々お待ちを。(笑)

>最初から自然の一部にしか過ぎません

いや、そうなんです。おっしゃるとおりです。
でも、多くの人間がそのことを忘れてしまっています。
思い出すことが大切なんだということです。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む