グールド&ゴルシュマン指揮コロンビア響のバッハ協奏曲第3番(1967.5録音)ほかを聴いて思ふ

星新一が逝って早20年近くが経過する。

星新一の物語が古びないのは、そこに時代背景を思わせる風俗描写がないからだと前に書いた。星自身なぜ風俗描写を避けようと思いたったのかは自分でもわからない、と「なりそこない王子」のあとがきに記している。ただ、宇宙人の話を書く場合に、彼らと自分たちの時代の流行語をまじえて会話するのはおかしいとは思ったという。
しかし、星はまた、自分の書くものは実は風俗小説であり、私そのものがひとつの時代、ひとつの風俗の産物なのだともいっている。事実、星が作家としてスタートした頃には宇宙時代の幕開けといわれたガガーリンの人工衛星初飛行があり、テレビや高速道路も誕生した。臓器移植も同様。1967年には南アフリカ共和国のバーナード医師が世界初の心臓移植に成功し、「少年と両親」が発表された頃は臓器移植ブームが起こっていた。
いまこれほど星の物語が響くのは、当時すでに現代の問題につながる芽があったからであり、三十年経っても古びないのは、それが真の警告だったからではないかと思うのである。
最相葉月著「あのころの未来―星新一の預言」(新潮社)P89-90

流行に左右されない意志とでも云うのだろうか。
眼前に起こっている事実だけを冷静に客観視できれば、そもそも人には先を予見する能力というのは与えられているのだと思う。しかしながら、そこにはあくまで「没頭」がある。

星新一のショートショートには恐るべき寓話が存在する。
例えば、「現象」(「ありふれた手法」所収)。
農家や畜産業など、動植物の命を扱う仕事を生業にする人々が、いわば良心に目覚め、無暗に命をとることができなくなるという短い物語。
ちなみに、最後のフレーズは、

人類、種族としての寿命の終りの時期が迫ると・・・。
星新一著「ありふれた手法」(新潮文庫)

とある。星は、この小説で、食物連鎖の終りが人類絶滅のときだと暗に示唆しているのだという見解が一般的だが、僕にはそうは思われない。現在の(堕落した?)意識レベルの人類をそろそろ終わりにしても良いのではないかという神のご加護(?笑)ともとれるからだ。
秘められたニュアンスをひもとく妙が星新一のショートショートにはある。そこが何より興味深い。

未来を予見するものは、否、私心のない創造物はそもそも普遍的なのである。
ビートルズ然り、グレン・グールドもまた。
ところで、1967年、ビートルズがロンドンで「サージェント・ペパーズ」に取り組んでいた頃、グールドはニューヨークでバッハを録音していた。
この斬新な響きと、それでいていぶし銀のような渋さをあわせ持つ協奏曲は、いまだに僕たちに新たな発見の機会を与えてくれる。
機械仕掛けのようなピアノの音色が、心を直接に捉える。第3番ニ長調第1楽章アレグロの心地良いテンポと、軽快なピアノ独奏の喜び。また、第2楽章アレグロ・エ・ピアノ・センプレの憂愁はグールドの真骨頂。

J.S.バッハ:
・ピアノ協奏曲第3番ニ長調BWV1054(1967.5.2録音)
・ピアノ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056(1958.5.1録音)
・ピアノ協奏曲第7番ト短調BWV1058(1967.5.4録音)
グレン・グールド(ピアノ)
ウラディーミル・ゴルシュマン指揮コロンビア交響楽団

プレイバックに浸るグールドの恍惚の表情が堪らない。
彼は本当にバッハを愛していたのだ。
第7番ト短調第1楽章アレグロは、ゴルシュマン&コロンビア響による出の管弦楽の勢いある確信的響きが素晴らしい。そして、虚ろでありながら美しい音調の第2楽章アンダンテでのピアノの粋と、終楽章アレグロ・アッサイの集中力。不思議なことに、ここではグールドのいつものうなり声がほとんど聴こえない。

四十六億年前、地球はこの宇宙に誕生した。四十億年前、地殻が形成され、海ができ、海のなかで生命は生まれた。私たちの生命は、宇宙に起きたたった一つの奇跡に支えられて、いまここにある。
宇宙は生命のふるさと。宇宙に生まれ、宇宙に還ることの永遠を知れば、誰が死をおそれることがあるだろう。壮大な生命の連鎖を描いた「生命のふしぎ」は、私たちに生きる勇気と死を手にすることの自由を教えてくれている。
星新一、三十二歳の未来への遺言だった。
~同上書P246-247

1959年の星新一はすでに覚っていたようだ。
何という永遠。1967年のグレン・グールドは覚っていたのだろうか?

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村


2 COMMENTS

雅之

私が高校時代読んだ星新一のショートショートの文庫本の中で、特に印象に残っているひとつに、後ろの解説で誰だかが紹介していた星新一の年賀状があり、これは、今でもすべての年賀状における最高の名文句だと信じています。

「今年もまたご一緒に九億四千万キロメートルの宇宙旅行をいたしましょう。
これは地球が太陽のまわりを一周する距離です。
速度は秒速29.7キロメートルのマッハ93。安全です。

他の乗客たちがごたごたをおこさないよう祈りましょう」

返信する
岡本 浩和

>雅之様

天才です!!
この、当たり前の事実を、凡人が思いつかない異なる観点で、しかも希望的に語れる星新一のひらめきに乾杯しましょう!(笑)

ありがとうございます。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください