The Beatles “Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band” (Anniversary Edition)を聴いて思ふ

いい加減踊らされるのは止めようと思っていたのだけれど、これだけはやっぱり止められなかった。

ビートルズが「サージェント・ペパーズ」をリリースしてちょうど50年目の日だという。この奇蹟のアルバムは、ポピュラー音楽史上に燦然と輝く傑作として今も僕の目の前に神々しいばかりに鎮座する。
「50周年記念エディション〈6枚組スーパー・デラックス〉」を買った。
ジャイルズ・マーティンによる新たなステレオ・ミックスは確かに目の覚めるような音響で、辛うじて僕の欲求を満たすものだった。もちろんモノラル・ミックスもリリース当初の「元の形」を留める重要なソースで、しかも(3曲の未発表を含む)6曲のボーナス・トラックが追加収録されているわけだから手元に置いておくという意味で大切。しかし、完成形に行き着くまでのプロセスを重視する熱狂的なファンの気持はわからなくもないけれど、やっぱり僕にとっては2枚のセッションズと題する未発表アウトテイク集は不要。

ポール・マッカートニーはかく語る。

50年後の今、ぼくらがこんなにも愛情を込めて、と同時に4人の男と偉大なプロデューサー、そして彼のエンジニアたちが、結果的にこんなにも長く聴き継がれる芸術作品を作り出したことに少しばかり驚きながら、このプロジェクトをふり返っていることを思うと、信じられない気分になるんだ。
2017年3月 ポール・マッカートニー(翻訳:奥田祐士)

真のマスターピースは、もはや生み出した本人たちの手の内にはなく、世界の、人類の宝として認識されるもので、創造者ですら畏怖させるパワーに溢れる。あらためて「サージェント・ペパーズ」をじっくりと聴いて、その素晴らしさ、美しさを再確認した。

ところで、このアルバムがドラッグの影響下にあった代物であったことは拭い去れない事実であり、是非はともかく未来に享受している僕たちはそのことを忘れてはいけないと思う。ジョー・ボイドによる「ロンドンのアンダーグラウンド」と題する小論には次のようにある。

LSDは1966年の秋までイギリスでは合法とされ、当局はそれをチェルシーやノッティング・ヒルの浮き世離れした“数百人”の変人たちが耽る、比較的無害な奇行と見なしていた。しかし1967年6月にマッカートニーがLSDでトリップしたことを告白すると、大変な騒ぎが巻き起こり、タブロイド新聞の見出しは、この国の道徳心を脅かす退廃的な流行を責め立てた。
ある意味で、6月はそれまでに起こったすべてに対する悪夢じみたクライマックスだった。
(翻訳:奥田祐士)

すべてが新しく、すべてが自由かつ特別な時代だった。
また、エド・ヴァリアミーは「1967年の世界」の中でこう語る。

レノンとマッカートニーを20世紀のイギリスが生んだ最高の作曲家と呼んだとしても、さほど異論は出ないだろう。一方ソ連ではドミートリイ・ショスタコーヴィチ―疑いなくロシアを代表する作曲家のひとり―が、1967年に2作目のヴァイオリン協奏曲、「アレクサンドル・ブロークの詩による7つの歌曲」を発表し、女暗殺者を主人公とする映画「ソフィア・ペロフスカヤ」の音楽を担当していた。ビートルズの音楽がロシアに及ぼしつつあった影響を、ショスタコーヴィチが意識していたかどうかは定かでない。
(翻訳:奥田祐士)

意識しないまでも、ビートルズに関する噂は、ソ連の偉大な作曲家の耳には入っていたのでは?それにしても、鉄のカーテンの此方と彼方で同時に起こっていた音楽上の革新という奇蹟が僕には興味深い。

The Beatles:Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (50th Anniversary Super Deluxe Edition)

Personnel
John Lennon (lead, harmony and background vocals; rhythm, acoustic and lead guitars; Hammond organ and final piano E chord; harmonica, tape loops, sound effects, and comb and tissue paper; handclaps, tambourine and maracas)
Paul McCartney (lead, harmony and background vocals; bass and lead guitars; electric and acoustic pianos, Lowrey and Hammond organs; handclaps; vocalisations, tape loops, sound effects, and comb and tissue paper)
George Harrison (lead, harmony and background vocals; lead, rhythm and acoustic guitars; sitar; tamboura; harmonica and kazoo; handclaps and maracas)
Ringo Starr (lead vocals, drums, congas, tambourine, maracas, handclaps and tubular bells; harmonica; final piano E chord)

強いて言うなら収穫は、(”Strawberry Fields Forever”と”Penny Lane”を含む)5.1サラウンド・ミックスとハイレゾ・ステレオ・ミックス・オーディオを収録したBlu-rayディスク。とても50年前のものとは思えない自然な人工性とでも表現しようか、崇高な芸術にまで高められたトリップ音楽の醍醐味。思わず耽った。心が震えた。涙が出た。
また、リストアされたプロモーション・ビデオの明らかにぶっ飛んだ映像美。
ただし、同内容のDVDディスクはなくもがな。

 

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4 COMMENTS

雅之

>このアルバムがドラッグの影響下にあった代物であったことは拭い去れない事実であり、是非はともかく未来に享受している僕たちはそのことを忘れてはいけないと思う。

それに加えて、じつは寄生生物に操られていたのかもしれません。すべての宗教心やテロ行為と同様に。

清潔な現在の先進国が、いいのか悪いのか、それはわかりません。

「心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで」 キャスリン・マコーリフ (著), 西田美緒子 (翻訳)

https://www.amazon.co.jp/dp/4772695559/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1496345668&sr=1-1&keywords=%E5%BF%83%E3%82%92%E6%93%8D%E3%82%8B%E5%AF%84%E7%94%9F%E7%94%9F%E7%89%A9

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岡本 浩和

>雅之様

>じつは寄生生物に操られていたのかもしれません。

未読ですが、あり得ますね。わかる気がします。

>清潔な現在の先進国が、いいのか悪いのか、それはわかりません。

不衛生な昔にはもはや戻れませんが、同感です。

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