ブゾーニ渾身のカデンツァを聴きながら

beethoven_szigeti_dorati.jpg明日から10月。あと3ヶ月で2009年も終わるんだと思うとあらためて時の経過の早さに驚かされる。いよいよ大学でのキャリア支援講座が本格的に始まるが、大学生を相手にした講義は久しぶりなので、ワクワク感と、いまどきの大学生がどんな様子で、それに対して上手く対処していけるのかどうかという少々の不安感とが入り混じっていて妙な心持が続く。昨年は就職を控えた何人かの学生諸君と向かい合って、エントリーシート講座や面接対策講座を開催した。お蔭様で好評で、後輩に薦めたいから次年度もやって欲しいと懇願されたものの、学生からたいしたお金をいただくわけにもいかず、その労力に比して実入りが薄いゆえ熟考の末結局やらなかった。

それでも長い間学生相手の仕事に従事していたものだから、もう一度どんな形でもいいので現場で学生に触れてみたいと思っていた矢先の話だったので飛びついたのである(といっても、当然書類審査、プレゼンテーション、面接を通過する必要があったわけだが。髪を切り、色を黒く戻したのは先方から採用にあたり条件として求められたから)。

ちなみに、髪を切った日のブログには「心機一転」と書いたが、このところ僕の周りでも転機を迎えている人は多い。何かを感じて前向きに事を進めてゆくのは大切なこと。みんながんばれ。

ところで、久しぶりに1年前、2年前の「今日」のブログを読み返した。
2008年は昔懐かしい友との再会の喜びが記され、カツァリスの弾くショパンのソナタ全集を聴きながら深まる秋の気配を堪能していたことが窺われる。一方、2007年はというと、友人の結婚式に出た後、パイヤールによるパッヘルベルのカノンを聴きながら人との出逢いの不思議、そして素晴らしさに想いを馳せていたようだ。同じく、人と関わりながら人生を歩んでゆくことの喜びをあらためて感じる長月最後の日である。

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61
ブラームス:ホルン三重奏曲変ホ長調作品40
ヨゼフ・シゲティ(ヴァイオリン)
アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団
ジョン・バローズ(ホルン)、ミエツィスラフ・ホルショフスキ(ピアノ)

シゲティの音は決して美しいとはいえない。若い頃、まだクラシック音楽を聴き始めて間もない頃は何だか擦れて濁ったような響きの音に失望を感じ、指南書を見て購入したいくつかの音盤は、例によってしばらく棚の奥にしまいこんでしまっていた。たとえシゲティの凄さについていろいろと言及されている音楽書を見ても、残念ながら実演を知らない僕にとっては「絵に描いた餅」、到底「愛聴盤」にはなりえなかった。その考えは今聴いてみてもさして変わらない。ドラティの伴奏の上手さは伝わるものの、シゲティの音色についてはやっぱり「よくわからない」。それでも、時折この音盤を取り出して聴く羽目になる。というのも、第1楽章のカデンツァに珍しくブゾーニのものが使用されているから。オーケストラ伴奏付のこの独奏カデンツァは、まるでベートーヴェンの愛の告白のようで、当時恋愛の真っ只中にあった楽聖の胸の内を見事に表現したブゾーニ渾身の傑作である。ともかくそれが聴きどころ。


6 COMMENTS

ザンパ

こんにちは。
このCD持ってます!このCDはドラティが素敵なんですよね。
再現部に追加されたオーボエの絡ませかたなど、しびれてしまいます。
実に堂々たっぷりした伴奏ですよね。
シゲティは高音部の張った鋼のような響きが好きです。
ベートーヴェンのこの曲は薄っぺらい印象があるのですが、
この演奏だと、その欠点が目立たなくて好きです。
あとはハイフェッツのように美音で駆け抜ける演奏も同時に好きです。

返信する
雅之

2007年9月30日の岡本さんへ
はじめまして、雅之と申します。2008年以降の岡本さんにクラシック音楽の趣味他で大変お世話になっている者です。
本日は、ドラえもんのタイム・マシンに乗って伺いました。
>「家庭を持つこと」や「社会生活を送っていく上でのバランス」の重要性をあらためて感じさせられた。
>やっぱり「赤い糸」なるものが存在していて、おそらく生まれる前から「決めて」この世に出てきているのだろうと再確認させられる。いつ出逢うかというのは個人差があるもので、結局のところは「必然」、自然の流れに任せるしかないのだろう。
そうでしょう、そうでしょう(笑)。 しかし、そういう2007年の岡本さんも内心「そろそろ自分も年貢の納め時か」と思ってますよね(笑)。私にはわかるんです(笑)。
2009年9月30日の岡本さんはブログで、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のシゲティ盤を取り上げられ、第1楽章のブゾーニのカデンツァを「ブゾーニ渾身の傑作」と高く評価されておられます。私も同感です。
ブゾーニはこのカデンツァやバッハの編曲物しか知りませんでしたが、思い出したら2007年に、タイトルの面白さで(少しジャケ買い要素も有り・・・笑)、私はこんな再発CDを買って聴いていました。
ブゾーニ 歌劇『嫁選び』全曲 バレンボイム&SKB他
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2560623
これは新古典主義的作風の思いがけない傑作オペラで、R.シュトラウスの隣に置いてもよい出来だと思いました。岡本さんの「嫁選び」のご参考にしていただけたらと思い、お薦めしたいです。
ただし、くれぐれも、この『嫁選び』を聴いたがために配偶者の選択を誤り歴史を変えることのないよう、ご注意願います。
岡本さんの「赤い糸」は、既にあの人と固く結ばれているのですから・・・。

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岡本 浩和

>ザンパ様
おはようございます。
>再現部に追加されたオーボエの絡ませかた
「いかにも!」ですね。
>ベートーヴェンのこの曲は薄っぺらい印象があるのですが、
この演奏だと、その欠点が目立たなくて好きです。
なるほど、これも僕の聴き込み不足かもしれません。じっくりと寄り添うように聴くようにしてみます。
毎々ありがとうございます。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
わざわざタイムマシンに乗っていらしていただきありがとうございます。
>しかし、そういう2007年の岡本さんも内心「そろそろ自分も年貢の納め時か」と思ってますよね(笑)。私にはわかるんです(笑)。
どうしてわかったんですか!!あっ、そうですよね・・。2009年の世界からいらしてるんですもんね(笑)。
>ブゾーニ 歌劇『嫁選び』全曲 バレンボイム&SKB他
まさにジャケ買いしそうな代物ですね!しかし、僕は聴いたことございません。
>新古典主義的作風の思いがけない傑作オペラで、R.シュトラウスの隣に置いてもよい出来
なるほど、興味深いです。
>ただし、くれぐれも、この『嫁選び』を聴いたがために配偶者の選択を誤り歴史を変えることのないよう、ご注意願います。
胸に誓って!!(笑)

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たんの

3年程前から年2回、明治大学でNPOのキャリア講座を担当しています。
私の場合、面接等ではなく、コーディネーターの教授に依頼されてです。
多い時で400人、少ない時でも200人程の学生が参加します。
ほとんどの学生は、単位が目的のようで・・・。
岡本さんの、学生に対する熱気のある講義を見ている私は、これでいいん
だろうか?もっとよい講義をしなければと、反省しつつ継続しています。

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岡本 浩和

>たんのさん
こんばんは。
そうでした、たんのたんも講座をやられてたんですよね!!
>岡本さんの、学生に対する熱気のある講義を見ている私は、これでいいん
だろうか?もっとよい講義をしなければと、反省しつつ継続しています。
いえいえ、こちらこそいろいろと教えていただきたいと思います。
よろしくお願いします。

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