不滅のモーツァルト

mozart_haskil_grumiaux.jpg60席ほどの客席は満席。女優の越智静香さんの作・演出・脚本という「Fly~Women Jump~」を観劇した。今や懐かしい小田急線経堂駅から徒歩で15分ほどのところに位置するB-Boxアトリエスタジオにて。若手の声優さん4人が舞台に出ずっぱりで繰り広げるバルドー(死から新しい生にいたるまでの中有空間)での物語。越智さんらしく最後は全てへの感謝で終わる。
正直最初は小空間での声の大きさばかりが耳について興醒めだったのだが・・・、少しずつ内容が把握できるとともにぐいぐい引き込まれていった。うん、よかったと思います。

週末の「早わかりクラシック音楽講座」のため久しぶりにシューベルトについて勉強しているが、どんな作曲家にせよ生涯や作品についてあれこれ掘り下げてみると新たな発見や気づきがあり、これまで以上に作品そのものに興味が持て、一層愛着が湧くのだから面白いものである。彼の音楽も重要作はそこそこに聴いてきたつもりだったが、あくまで大枠を把握しているに過ぎず、そういう意味ではほとんど無知だったと言ってしまってもよい。

ところで、シューベルトはことのほかモーツァルトを愛していたという。1816年、19歳の時の日記の一節を読むとそのことがよくわかる。
「・・・僕の一生を通じて今日の日は、明るく澄み亘った、美しい日として残るだろう。まだ僕の耳には、遠くからモーツァルトの音楽がこだまのような音をかすかに伝えてくる。何と力強く、また優しく、シュレージンガーの奏くヴァイオリンが心にしみわたったことだろう。こうして心に押された美しい刻印は、どんな時間も状況も消すことはできない。それはわれわれの存在に、いつまでも恵みを及ぼすのだ。こうして、この世の闇の中に、明るく澄み切った美しい『彼方』が開かれる。ぼくたちはそこに希望を託すのだ。おお、モーツァルト、不滅のモーツァルト、このように明るく、よりよい生命の恵みの刻印を、どんなにたくさん、限りなくたくさん、われわれの心に与えてくれたことだろう・・・」
新潮文庫「シューベルト」(前田昭雄著)

やっぱりモーツァルト以上の天才っていないのだろうな。それにしてもシューベルトが聴いたモーツァルトのこの曲は何だったんだろう?ヴァイオリン・ソナタの中の1曲だろうか。

モーツァルト:
ヴァイオリン・ソナタ第40番変ロ長調K.454
ヴァイオリン・ソナタ第42番イ長調K.526
ヴァイオリン・ソナタ第41番変ホ長調K.481
クララ・ハスキル(ピアノ)
アルテュール・グリュミオー(ヴァイオリン)

僕は、シューベルトが聴いたのは変ホ長調のソナタだったんじゃないかと勝手に想像する。「変ホ長調」という調性も含め、先の言葉にぴったりの音楽だと思うから。しかも、この音盤ではグリュミオーがピアノまで弾き、一人多重録音している。ハスキルとの演奏以上に「ひとつになっている」と感じるのはそのせいかも
しれない。

※この音盤、ひょっとすると以前にも採り上げたかな・・・。

2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
寒空の年の瀬やクリスマスに、モーツァルトやシューベルトの話をするのはとても切ないです。岡本さんが、どんなにご自分のフィルターを通して、人生肯定論的にビジネスにさえ役に立つくらい明るく前向きに作曲家や作品を語ろうが、モーツァルトやシューベルトの音楽の持つ世の中にある究極ともいえる美は、雪の結晶のように無情にも儚く消えていった彼らの人生を想わずにはいられないからです。それは、「アルジャーノンに花束を」(ダニエル キイス 著)
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8E%E3%83%B3%E3%81%AB%E8%8A%B1%E6%9D%9F%E3%82%92-%E8%8B%B1%E8%AA%9E%E7%89%88%E3%83%AB%E3%83%93%E8%A8%B3%E4%BB%98-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E3%83%AB%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%83%80%E3%83%8B%E3%82%A8%E3%83%AB-%E3%82%AD%E3%82%A4%E3%82%B9/dp/4770023723/ref=sr_1_3?ie=UTF8&s=books&qid=1261602145&sr=1-3
の読後感にも似ています。その短い人生の哀しさに正直に向き合う勇気がないのなら、彼らについて語るべきではないと、私は思います。
「早わかりクラシック音楽講座」は例によって出席できないのが残念ですが、26日はクリスマスが終わったばかりですので、シューベルトの「アヴェ・マリア」をリクエストします。
http://www.youtube.com/watch?v=Iy-ZvD0Pnq0
この曲で、岡本さんのおススメCDはありますか?
※ご紹介の曲と演奏の素晴らしさは言うまでもありません。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
モーツァルトもシューベルトも短い人生だったがゆえの「必然性」があったように思います。もちろん二人ともより長生きしていたら一層「完成」したかもしれませんが。
ただ、おっしゃるとおり「切なくなる」ことは間違いないですが。
>「アルジャーノンに花束を」(ダニエル キイス 著)の読後感にも似ています。
確かに!
「アヴェ・マリア」いいですね!講座では採り上げようと思っていました。おススメはバトル&スラットキン盤です。長年の愛聴盤ですね。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む