むき出しの魂-ムソルグスキーの真実

mussorgsky_horowitz_carnegie_hall.jpgムソルグスキーの感性はむき出しである。本日、第34回「早わかりクラシック音楽講座」を開催した。2月20日の愛知とし子リサイタルのメイン・プログラムを俎上に上げ、作曲家の人生とその音楽を肴に3時間縦横に語り、そして談義した。

どういうわけか参加予定者の数人が直前キャンセルになり、集まったのは女性ばかりで、どうも似たような感性(クリエイター気質)の持ち主たちだった。「展覧会の絵」を聴き、「もやもやしていたものがすっきりした」という参加者もいれば、「ムソルグスキーは正直他人事とは思えない」という方もいた。でも、少なくともクリエイターならば、多少常識ハズレの行動があったにしても、むき出しじゃないと面白いものは創造できないだろう。やりたいようにやり、生きたいように生きた方が良いと思う。やるだけやってうまくいかなかったらそれはそれで納得できることだし。

組曲「展覧会の絵」原典版は、作曲者の生前は演奏されることがなかった。それどころか、巷の話題にすら上らなかったという。盟友リムスキー=コルサコフが作曲家の死後、出版にこぎつけるが、それはリムスキー風の味付けがなされた編曲版であった。この音楽が世間一般に認知され、人気を誇る作品と化すのは40年という月日を待たねばならなかった。ボストン響のセルゲイ・クーセヴィツキーの委嘱によりモーリス・ラヴェルが管弦楽化したのが1922年。以降、オーケストラのレパートリーとして定着するが、これほど効果的でお洒落な編曲もなかなかない。

今回の参加者のほとんどは「展覧会の絵」の全曲をまともに聴いたことのある人は少なく、聴後感想を聞いてみたが、どなたも原典版であるピアノ・バージョンが好みだという。ムソルグスキーのむき出しの魂が直接的に響いてくるところが好いのだと。それに対して、ラヴェル版の方は、お洒落だけど、作り込み過ぎているように感じるのだと。なるほど、彼女たちの類稀なる感性に乾杯である。

しかしながら、僕は思う。ムソルグスキーのオリジナル版はラヴェルの編曲版があってこそのものであり、化粧を施されたこのオーケストラ版の存在なくしてそもそもありえないのだと。どんなに芸術的に優れていても、やはり一般大衆に受容されない限り、その作品は埋没してしまうのだから。芸術を創造する者とそれを世に広める者と。そういう役割分担がどんな仕事においても大事なのかもしれない。

ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(ホロヴィッツ編曲)
ウラディーミル・ホロヴィッツ(ピアノ)(1948.4.2Live)

昨年リリースされたカーネギーホール・プライベート・コレクションからの1枚。全盛期のホロヴィッツの音楽は強靭である。ムソルグスキーの心ってこんなに強かったのだろうか?そんな観点から聴くと多少の違和感を覚えなくもないが、ホロヴィッツの名編曲に包まれたこの「展覧会」は他のどんなピアニストも敵わない独特のオーラが発揮される。

弱い自分を強く見せようとムソルグスキーは頑張った。でも、どんなに背伸びしても人にはわかってしまうもの。無理をせず、ありのままに表現しようとした本来の姿に戻ったときに作曲家の本質に近づくのではないか。その意味ではポゴレリッチ盤はあまりにも遅いテンポであることを除けば、ムソルグスキーの感性に適った演奏なのではないか。講座でCDを聴きながらそんなことを考えた。

これでしばらく「展覧会の絵」は聴き収めだろうか。20日の愛知とし子の実演を除いては。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。私のおススメ盤をまた2枚。
江口玲(P)盤
http://www.amazon.co.jp/%E5%B1%95%E8%A6%A7%E4%BC%9A%E3%81%AE%E7%B5%B5-Pictures-at-Exhibition-%E6%B1%9F%E5%8F%A3%E7%8E%B2/dp/B000HBK0NY/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=music&qid=1265020442&sr=1-1
ホロヴィッツの編曲版を最新の録音で・・・。江口玲さんの演奏、素晴らしいです。
>ラヴェル版の方は、お洒落だけど、作り込み過ぎているように感じる
そうした向きにはヴァント指揮盤をぜひ!
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A0%E3%82%BD%E3%83%AB%E3%82%B0%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC-%E5%B1%95%E8%A6%A7%E4%BC%9A%E3%81%AE%E7%B5%B5-%E5%8C%97%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E6%94%BE%E9%80%81%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%A5%BD%E5%9B%A3/dp/B00005EGSX/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=music&qid=1265020505&sr=1-1
この曲に、禁欲的だけれど気高い精神性を感じさせてくれます。
「展覧会の絵」という曲は七変化ですね! 「やまとなでしこ」と一緒(古い!!)。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
江口さんのCDは未聴ですが、これは鳥肌が立ちそうですね!
聴いてみます。
ヴァント盤は僕も持っておりまして、何度も聴いてますが、おっしゃるとおり「禁欲的だけれど気高い精神性」を感じます。老巨匠の晩年ならではの演奏ですね。
まさに七変化です。いろいろと楽しめますね。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む