ショスタコーヴィチ&ベートーヴェン四重奏団のピアノ五重奏曲ほかを聴いて思ふ

shostakovich_11_12_13_beethoven_q人と人との直接の交わりが高揚を喚起する。
人は人として人を必要とするのである。
それなのに、斜に構え、目の前の事象を他人事のようにとらえてしまう。
裏目、裏目、人生とは皮肉なり。

車の運転は父に向いていなかったように思います。父はあまりにも感受性が強く、神経質な人でしたから。その上、人一倍責任感があったし・・・。
~ガリーナ・ショスタコーヴィチ、マキシム・ショスタコーヴィチ(語り)/ミハイル・アールドフ編/田中泰子監修「カスチョールの会」訳「わが父ショスタコーヴィチ」(音楽之友社)P127

矛盾の中に生きているのが人間。そして、無言の圧力、葛藤の中で、哀しみを背負い、悦びを味わうのである。
ドミトリー・ショスタコーヴィチの音楽は、いずれも人間臭い。
現実世界を斜めに見ながら、ひとつひとつの動きを見事に凝視する。でなければ、あんなに内的な熱い音楽など書けるものか・・・。

湧き立つ音楽の魔法。
時に剽軽で見下しながら、時に崇高で貴い旋律を創造する妙技。世界を取り込み、見事に音化する様は何世紀かに一人の天才のそれ。
ショスタコーヴィチの自作自演を聴いて、そんなことを思った。

ショスタコーヴィチ:
・ピアノ三重奏曲第2番ホ短調作品67(1947録音)
ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン)
ミロス・サドロ(チェロ)
ドミトリー・ショスタコーヴィチ(ピアノ)
・ピアノ五重奏曲ト短調作品57(1950年代録音)
ドミトリー・ショスタコーヴィチ(ピアノ)
ベートーヴェン弦楽四重奏団

極めて正当な、遊びの少ない演奏。
ピアノ三重奏曲作品67の律義さは、それこそ責任感の強いショスタコーヴィチの象徴。
人生は何と暗いものなんだと作曲家は訴える。
しかし一方、そんなものは似非だと、愉快に行こうではないかとすべてを解決に導こうとするのである。

そして、孤高のピアノ五重奏曲作品57。
第2楽章フーガ(アダージョ)の幽玄かつ深みのある音楽にショスタコーヴィチの天才を思う。中間に聳え立つ作曲者本人のピアノによる抑圧の解放たる叫びは、全世界の悲哀を背負うかの如くの慟哭。
また、第3楽章スケルツォ(アレグレット)の、いかにもショスタコーヴィチらしいアイロニカルな音楽に思わず弾ける。ベートーヴェン四重奏団の鋭角的な演奏に、作曲者のピアノが直接に切り込む様に僕は感動を覚える。
第4楽章間奏曲(レント)は、孤独に耽るショスタコーヴィチの真骨頂。あまりに美しい。
さらに、終楽章アレグレットの幻想的な明るさと虚ろな暗闇の対比に、ショスタコーヴィチの苦労の真実を思う。

「その作品を書くとき、あえて演奏者として、ぼく自身を盛り込んだんだ。そうすれば、ベートーヴェン四重奏団や、グラズノフ四重奏団がそれを地方公演でやりたいというときには、ぼくを連れて行かなければならないでしょう。旅行する口実ってわけさ」。その計略は見事に成功した。彼は徹底的に練習を重ねた。ピアノ五重奏曲は、レニングラードの作曲家同盟からスターリン賞候補に推薦され、初演前であったが、その選考委員会のメンバーの前で演奏された。それが聴衆の間で大成功を収めると、演奏依頼が殺到した。
ローレル・E・ファーイ著 藤岡啓介/佐々木千恵訳「ショスタコーヴィチある生涯」(アルファベータ)P158

ショスタコーヴィチは計算の人だ。

 

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2 COMMENTS

雅之

ご紹介の録音は貴重ですよね。とりわけピアノ五重奏曲作品57は傑作中の傑作ですよね。

ところで、「戦艦ポチョムキン」に、本来この映画のためにエドムント・マイゼルが作曲した音楽を入れたバージョン

https://www.youtube.com/watch?v=NIKYGwQz–I

と、ショスタコーヴィチの曲を当て嵌めた版

https://www.youtube.com/watch?v=_Glv_rlsdxU

が周知のとおり存在しますが、ショスタコーヴィチ当て嵌めバージョンで聴くと、複雑な本音と建て前の多層構造を作品に付加し、より人間社会の実態に肉薄しているように感じて興味深いです。

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岡本 浩和

>雅之様

なるほど、比較して観てみるといろいろな発見があるかもですね。
ただ、ここ数日2本を比べる時間がとれないので、ゆっくりと鑑賞させていただきます。
ありがとうございます。

>とりわけピアノ五重奏曲作品57は傑作中の傑作ですよね。

はい!もう最高です!

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