ヤツェク・カスプシク指揮読売日本交響楽団第571回定期演奏会

ドミトリー・ショスタコーヴィチはパンクだ。
そして、(おそらく彼の影響を受けた)ミェチスワフ・ヴァインベルクは、ショスタコーヴィチのイディオムを随所に見せながら、実に静けさに富む恍惚の音楽を創造した。
20世紀のソヴィエト連邦の奇蹟。

ギドン・クレーメルを聴いたのはいつ以来だろう?
本邦初演のヴァイオリン協奏曲に僕は癒された。
彼は一層老練の響きを醸し、相変わらずの繊細な音楽を聴かせてくれた。まるで針の小さな穴に細い糸を通す時のような集中力と緊張感。純粋無垢な高音はどんな時も痩せることなく豊饒な音楽を生み出す源。遠い客席にまで届く音楽の美しさ、特に第3楽章アダージョは空前絶後(いかにもショスタコーヴィチ好み)であり、あまりの静けさの中に動くヴァイオリン独奏の、壮絶死を予感した作曲家が安息を求めて逍遙する如くの美しさと透明さを保った。何より終楽章アレグロ・リゾルートのカデンツァが見事。

創作にはどうしてもその人の生き様が反映される。巨大な管弦楽と、終始繊細な音を、粘りつくように回遊するヴァイオリン独奏。若き日のナチスからの辛うじての回避体験や、スターリンの死によって幸いにも死を免れた作曲家の人間不信の色合い。あるいは、解放された時の喜び、また希望。
雪解けの時代に初演された協奏曲の、柔らかな音調が聴く者の心に迫る。
また、まったくもってショスタコーヴィチ風の音楽だけれど、徐に弾かれたクレーメル編曲のヴァインベルク24の前奏曲からの2曲も絶品。

読売日本交響楽団第571回定期演奏会
2017年9月6日(水)19時開演
東京芸術劇場コンサートホール
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
荻原尚子(コンサートマスター)
ヤツェク・カスプシク指揮読売日本交響楽団
・ヴァインベルク:ヴァイオリン協奏曲ト短調作品67(日本初演)
~アンコール
・ヴァインベルク:無伴奏ヴァイオリンのための24の前奏曲作品100(クレーメル編)
―第4番
―第21番
休憩
・ショスタコーヴィチ:交響曲第4番ハ短調作品43

後半は怒涛の音波攻撃、ショスタコーヴィチの交響曲第4番ハ短調。この不屈の音楽が、時に阿鼻叫喚炸裂、時に静謐な祈りに七変化し、手に汗握る様相を呈した。それにしても読響の独奏陣の素晴らしさ、アンサンブルの見事さ。

全楽章通じて最高の出来であったと思うが、やはり終楽章ラルゴ―アレグロがこの世のものとも思えぬ美しさ。モーツァルトやリヒャルト・シュトラウス、そして自作からの引用の妙、ファゴットの巧さ、オーボエの妙なる音楽、どこをどう切り取ってもショスタコーヴィチの真髄を垣間見ることができた。特に、コーダの壮大な絶頂と、チェレスタとハープが絡み、静けさの中に天国的な響きを呈する最後のシーンに涙がこぼれるほどだった。

ショスタコーヴィチの交響曲第4番は、実演で聴けば聴くほどその音楽の凄さが腑に落ちる。最高傑作といっても過言でなかろう。
ちなみに、ヴァインベルクのヴァイオリン協奏曲とショスタコーヴィチの交響曲第4番は、奇しくも同年、1961年にモスクワで初演されている。

 

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