期せずしてファツィオリの聴き比べ。
3年ぶりのダニール・トリフォノフ。彼の弾く瞑想的弱音に痺れ、決してうるさくならない強音に興奮した。背中を丸め、頭を垂れて、まるでジャズ・ピアニストのような姿勢で臨む、強烈なアタックと愛撫するような恍惚が錯綜する渾身のプロコフィエフ。音楽は繊細であり、また大胆で、ロマノフ王朝末期の、宗教的信仰と現実的叛逆の相反(あるいは統一)を見事に言い当てる。実に凝縮された音楽美。
特に、全楽章を通じて頻出するカデンツァでのトリフォノフの独奏は技術的にはもちろんのこと、音楽的にも最高の出来を示し、懐かしい19世紀ロシア的憂愁と反骨の20世紀モダニズムの応酬に僕は心底感激した。
トリフォノフのプロコフィエフを聴けただけで本日の公演に来た価値大いにあり。
ほぼ満員のみなとみらい大ホールが熱気に包まれた。
木の温もりこもる会場の雰囲気と、そこに集まる人々の関心と、この若い一人のピアニストに注がれる眼差しが、その風貌(童顔に髭面はあまり似合わない)とは似つかない衝撃的爆演に一変したように僕は思う。
アンコールで奏されたショスタコーヴィチは可憐で、また音楽的。音楽をする喜びが刻み込まれた名演奏だった。
読売日本交響楽団第98回みなとみらいホリデー名曲シリーズ
2017年9月18日(月)14時開演
横浜みなとみらいホール
ダニール・トリフォノフ(ピアノ)
小森谷巧(コンサートマスター)
コルネリウス・マイスター指揮読売日本交響楽団
・スッペ:喜歌劇「詩人と農夫」序曲
・プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番ト短調作品16
~アンコール
・ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ作品87~第4番ホ短調前奏曲
休憩
・ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
予想以上に素晴らしかったのが「田園」交響曲。何より読響の木管群(特に倉田優さんのフルート!)の崇高で柔和な演奏に感服。
なかなか満足のゆく実演に出逢わないベートーヴェン指折りの傑作(だと僕は思う)の、実に自然体で、無理のない、それでいて生きることの希望に溢れる美しい演奏。小気味良いテンポでの第1楽章から明朗な音調を醸し、「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」という標題通りの美しさ。また、第2楽章「小川のほとりの情景」では、コーダの「小鳥の鳴き声」直後の弦楽器の弱音のあまりのニュアンスの豊かさにハッとさせられた。そして、大自然と人間の感情を見事に音化した続く3つの楽章の、キビキビとした中に垣間見える余裕と感謝の念に僕は思わず心の中で快哉を叫んだ。
特に、第4楽章「雷鳴、嵐」から終楽章「牧人の歌、嵐の後の喜びと感謝の気持ち」へのブリッジで奏されるフルートの美しさ!!そして、クラリネットとホルンに導かれて奏されるヴァイオリンによる第1主題に心動き、コーダ直前のクライマックスでは陶然!!!
ちなみに、コーダはもう少し名残惜しい哀感があっても良かったとは思うものの、今日のところは十分だろう。
台風一過に相応しい「嵐の後の喜びと感謝の気持ち」に溢れる実に敬虔なひと時だった。
みなとみらいホールはとにかく音響に優れる。
ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。