実に浪漫色豊かなジュゼッペ・マルトゥッチの歌。
懐古的な、無限の響きは、ワーグナーの楽劇に心酔したマルトゥッチの本懐だろうか。いざ自作となると官能よりも老練が、つまり枯淡の美しさを前面に押し出して、彼は永遠の歌を生み出した。
一方、オットリーノ・レスピーギの、哀感伴なう、心根に響く歌は同じく懐かしさの極み。
パーシー・ビッシュ・シェリーを原詩とし、ロベルト・アスコリのイタリア語訳に音楽を付した歌曲「日没」の、真の平和、安息を祈る言葉の愛おしさ、あるいは音楽の愛らしさ。
ここでのキャロル・マデリーンのメゾの深々とした思いのこもった歌唱が一層音楽を豊かなものにする。
ロンドンはロスリン礼拝堂での録音。マルトゥッチの夢見る「夜想曲」の旋律美。クライマックスに向けて音楽は高らかに歌われ、コーダに向け沈潜してゆく色合いがまた感動的。
ちなみに、マルトゥッチとレスピーギは、ボローニャ高等音楽学校において師弟関係にあった。レスピーギの古楽趣味も、あるいは彼の生み出す音楽の官能、あるいは懐かしい響きの本はそこにあったのかどうなのか。