復元力

scarlatti_sonatas_ciccolini.jpg「社会の変化と仕事の変化」という題目で、慶應義塾大学SFC研究所高橋俊介先生の講演を聴いた。絶妙の語り口とご経験をもとにマシンガンのように飛び出す言葉に圧倒されながら2時間のお話しは毎回とても有意義で楽しい。通常、こういう講演会は得てして眠くなるものだが、そういうスキを一切与えない。先生の私的なことはもちろん知らないが、いろんなことに興味を持ち、とにかく様々体験してこられたのだろうことが容易に想像つく。そのお人柄も含め極めて魅力的だ。

昨日の話も細かいところまで思い出すと、なるほどと思わせられるところは多々あったのだが、ひとつひとつを紹介し出すときりがないので、これはポイントではないかと思う点を挙げてみることにする。もちろん前後の話を聴いた上でじゃないと理解し難いところもあるのは承知の上で。

日本人のメンタリティとして、インド、中国や米国と比べ「復元力」が極めて弱いということをおっしゃっておられた。例えば、現在の雇用に対する不安をどれくらいの人がもっているのか。パートタイマーでは48%が不安を抱えているのだという。確かにそれはそうだろう。未来の展望が全く保障されない中での労働なのだから気持ちはわかる。では、正規社員の場合はどうか。何と47.3%が同じように不安を持っているのだという。アルバイトだろうと正社員だろうと
「不安」についてはほとんど変わらないという驚くべき事実が浮かび上がる。

この結果を受けて、日本人は「復元力」が極めて弱いのだというお話をされた。インドや中国、あるいは米国に比べ極端にその力が落ちるようだ。先生曰く、「復元力」とはいわばシミュレーション・ドライブであり、問題にぶち当たった時に最悪の状況を含め様々な状態をシミュレーションし、いざというときにきちっと対処できる能力のことをいうようだ。要は上手くいかなかったときも想定内ゆえ、焦らず、次がんばろうと即座に思える「思考回路」をいかにもつかが大切だということだ。何とかなるだろうというポジティブ思考。そして、ちょっとしたことでめげるなと。ちなみに、メジャー・リーグで言うとイチローは「復元力」が高いからスランプが少なく、一方、松井は「復元力」が低いからスランプが多いのだと。

なるほど、すべてが勉強になります。

ところで、今日も丸一日大学の講義に出ていた。「キャリア・プランニング」を担当しているが、授業が終わった後、学生が「本当にこの授業が毎週楽しみなんです」とわざわざ言いに来てくれたことが正直とても嬉しい。多少やんちゃな印象を与える学生だったから余計にそう感じる。さすがに疲れたので、ものを考える余地、余裕が全くない(汗)。ぼーっと音楽を聴こうとスカルラッティを取り出した。

スカルラッティ:ピアノ・ソナタ集
アルド・チッコリーニ(ピアノ)

嗚呼、癒される。スカルラッティの音楽にはまさに「復元力」を刺激する「力」がある。昔、ホロヴィッツの演奏で聴いて、何て簡潔で美しい音楽なのかと惚れ惚れしたことを思い出す。以来、いろんなピアニストで聴いてきた。若きポゴレリッチの演奏は特に素晴らしいが、今だったらもっとデフォルメされた「能」的な表現に終始するのだろうなと思うと、彼の「今」のスカルラッティを聴きたくなる・・・。チッコリーニの演奏はオーソドックスだ。とても安心感がある。こういう音楽、演奏は心地良い。

2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
あえて逆説を述べます。
今日の日本の若年層の苦悩は、本人たちの責任では100パーセントなく、社会構造、経済構造の問題にすぎません。だから、「ポジティブ」云々といった精神論で解決する問題でもまったくありません。「日本人論」も関係ありません。人口増の結果による「少子高齢化」で、「老人天国」になるのも必然です。結果「高コスト体質」の国家になり、国際競争力が低下するのも、マクロ的に見れば必然の結果です。
岡本さんや私の世代はいいでしょう。でも、子供たちの世代の未来を、本当に我が事として考えると、とっても明るい社会が待っています。
現代日本人が抱えるストレスも、本人たちの責任ではいっさいありません。マクロ的に見ると、狭い国土に人口が多過ぎるのが主原因です。マウスを狭いケージで多くの個体数飼育すると、ストレスにより醜い戦い・殺し合いが始まります。それと同じです。
バッタやカゲロウなど、昆虫の大量発生という自然現象をご存じですか?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9D%97%E5%AE%B3
自然は、大量発生した個体数を、いつまでも維持するようには作られていません。人間だけが例外だというのは自然や他の生物に対し、おこがましいと思います。人間は「地球の生態系の、異常増殖した癌細胞」だという認識が必要だと考えます。
「新型うつ病」なるものが流行っているそうですが、責任を自己ではなく他者に向けるというのは、究極の「ポジティブ思考」ではないでしょうか?(老いも若きも、無意識のうちに、昔から誰でも大なり小なり皆やっていることです。病気ではありません) それは、生き延びるための、当たり前の正当防衛に過ぎないのだと思います。みんなそこまで追い詰められているのです。病んでいるのは個人ではなく、社会そのものなのです。これをタブー、禁句にして「自己責任」だといって誤魔化してきたのが、アメリカ型資本主義や新自由主義なのです。
では、どうしたら良いのでしょう? 日本国内の政治、経済は20代から40代に全部任せ、50歳を超えたら、アフガニスタンやイラクなどに全員移り住み、国際貢献を死ぬまでやる、これが次世代の日本人DNAの幸せを真に願うなら、ベストの選択だと思いますがどうでしょう?
チッコリーニ、最近の来日公演、評判がよかったので聴いてみたかったですね。いい歳の取り方ですね。羨ましいですね。なお、ご紹介のCDは未聴です。
ところで、日本人なら、日本人の演奏を、もっと聴きましょう!!
そうした私達の行為ひとつひとつが、国の繁栄に結びつくのです(笑)。
(↓以前にもご紹介したCD)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2583567
これは、楽器への興味面でも学ぶところも多いし、実際素晴らしい演奏です。
日本人演奏家のコンサートやリサイタルに、お互いもっと行きましょう!!
日本人演奏家のCDも、もっと買いましょう!!

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
>自然は、大量発生した個体数を、いつまでも維持するようには作られていません。人間だけが例外だというのは自然や他の生物に対し、おこがましいと思います。人間は「地球の生態系の、異常増殖した癌細胞」だという認識が必要だと考えます。
まったくもって同感です。
>みんなそこまで追い詰められているのです。病んでいるのは個人ではなく、社会そのものなのです。これをタブー、禁句にして「自己責任」だといって誤魔化してきたのが、アメリカ型資本主義や新自由主義なのです。
「うん、うん」と頷いてしまいます。
>日本国内の政治、経済は20代から40代に全部任せ、50歳を超えたら、アフガニスタンやイラクなどに全員移り住み、国際貢献を死ぬまでやる、これが次世代の日本人DNAの幸せを真に願うなら、ベストの選択だと思いますがどうでしょう?
少し過激かもしれませんが確かにそれくらいじゃないと変わらないかもしれませんね。
>日本人なら、日本人の演奏を、もっと聴きましょう!!
そうした私達の行為ひとつひとつが、国の繁栄に結びつくのです
はい、わかりました!!ありがとうございます。

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