ラズモフスキー四重奏団のフレーリヒ四重奏曲全集(2014&15録音)を聴いて思ふ

目をつぶって
手でずっと目を押さえてますとね、
だんだん星がでてくる。
星がどんどん拡がってね、
つまり闇から光が自発してくる。
一時間ぐらい押さえていると
ものすごく変化する。
けっきょく人間は
自分の中に光を持っている。
自分が光だから光がわかるわけだ。
人間というものが光と別のものなら、
光はわからないですよ。
埴谷雄高「生命・宇宙・人類」(角川春樹事務所)

世界にはいまだ出逢わぬ魅惑の音楽が星の数ほどあるのだろう。
知られざる作曲家の佳曲。新たな魅惑の作品を見出したときの興奮。大袈裟でなく、生きていて良かったと思う。
光の存在である人間が生み出す創造物は、音楽にせよ何にせよ、光だ。
光度が強ければ強いほど、たぶん感動を喚起する力が一層強くなるのだと思う。

フランツ・シューベルトとほぼ同時代を駆け抜けたスイスの作曲家、フリードリヒ・テオドール・フレーリヒの4つの弦楽四重奏曲。メンデルスゾーンの師であったツェルターが激賞したという彼の作品は、ハイドンやベートーヴェンの影響を強く受け、また、どこかメンデルスゾーン的でもある。確かに彼はメンデルスゾーンがライプツィヒで蘇演したバッハの「マタイ受難曲」にも参加したそうだ。しかし、精神を病み、内なる光を見失ってしまった彼は、わずか33歳で自らの命を絶った。もしも彼がせめてあと10年生きていたら、ひょっとするとより革新的で、美しい作品を創造していたのではなかろうか。実に残念だ。

フリードリヒ・テオドール・フレーリヒ:弦楽四重奏曲全集(2014.12.21-23 &2015.4.19録音)
・弦楽四重奏曲ヘ短調
・弦楽四重奏曲ト短調
・弦楽四重奏曲ホ長調
・弦楽四重奏曲ハ短調
ラズモフスキー四重奏団
ドーラ・ブラチコーヴァ(ヴァイオリン)
エフゲニア・グランジェアン(ヴァイオリン)
ゲルハルト・ミュラー(ヴィオラ)
アリーナ・クデレヴィク(チェロ)

1826年5月に完成された最初の四重奏曲ヘ短調は、伝統的な形に則った、可憐で愛らしい旋律が特長的な佳品。また、続く四重奏曲ト短調第1楽章アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーニの主題は、どこかハイドンの「皇帝讃歌」にも似た旋律で何ともメランコリック。嗚呼。
あるいは、(四重奏曲)ト短調から数ヶ月後に書き始められた(四重奏曲)ホ長調の不思議な透明感に惹きつけられ、(四重奏曲)ハ短調の内なる慟哭の響きに、ベートーヴェンへの尊敬の念を思う。

いま、われわれの生きている世界での
価値判断じゃなくて、
無限の中の価値を
言わないとならんのですよ。
無限の中にあるものとして、
これはあった方がいいか、
ない方がいいか。
しかもその価値判断に
ドラマがなくてはいけない。
~同上書

すべてはたぶん、ただそこにあるだけ。
それを発見するかしないか、できるかできないかはその人次第だ。偶々見つけた、意図せず聴いたその中に、おそらく「ドラマ」があるのだと思う。ラズモフスキー四重奏団の、脱力の、自然体の演奏が僕はとても気に入った。何という円やかさ、何という一体。

 

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