内田光子&ブーレーズ指揮クリーヴランド管のシェーンベルク(2000録音)ほかを聴いて思ふ

その人の人となりを知ればすべてが近づく。
アーノルト・シェーンベルクのこと。

シェーンベルクは、この祈りによる神との合一というテーマを、「セラフィタ」計画以降、自分で書いた宗教的テキストのいわば結論に設定してきた。《ヤコブの梯子》では終結部でガブリエルが、神との合一を求めて祈ることを全ての霊魂に命じる。
石田一志著「シェーンベルクの旅路」(春秋社)P492-493

「神との合一」という主題に目から鱗。そのことが理解できた瞬間に、彼の一見難解な音楽が近づいた。

人生はとても気楽であった(アンダンテ)が、まったく突然に憎しみが手綱を解いて暴れ出す(モルト・アレグロ)、状況は深刻になった(アダージョ)が、人生は続けて生きていかねばならない(ジョコーソ)。
~同上書P442

シェーンベルクが、晩年のピアノ協奏曲に付した標題は、まさに「神との合一」を追求する人間が、決して合一に至れない悲しみを謳う。十二音技法に則りながら、心に迫る旋律に涙する。

シェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンの十字軍たるブーレーズがかの時代より奮闘したお陰で今がある。

生徒たちは少人数でレベルは高いこと、レッスンの時間は短くすること、プログラムはブーレーズが選んだもので、3人のウィーン人がたびたび登場すること。
ヴェロニク・ピュシャラ著/神月朋子訳「ブーレーズ―ありのままの声で」(慶応義塾大学出版会)P87

1969年夏、バーゼルでのブーレーズの、指揮の公開セミナーでの引き受けの条件は、当時としてはとても厳しいものだった。50年の歳月が流れる中、随分ハードルは下がったように思う。

・シェーンベルク:ピアノのための協奏曲作品42(2000.4-5録音)
・ヴェーベルン:変奏曲作品27(2000.4-5録音)
・シェーンベルク:3つのピアノ曲作品11(1998.12録音)
・シェーンベルク:6つのピアノ小品作品19(2000.4-5録音)
・ベルク:ピアノ・ソナタ作品1(2000.4-5録音)
内田光子(ピアノ)
ピエール・ブーレーズ指揮クリーヴランド管弦楽団

懼れ多くも研ぎ澄まされた官能。
内田のピアノが形而上的移ろいを仄めかす。ヴェーベルンの小品も、シェーンベルクの独奏曲も、もちろんベルクの作品1も、すべてが色香の塊なのである。しかも、抑圧された色香。

そして、ブーレーズの棒が炸裂する。内田のピアノが時に弾け、時に沈潜する。シェーンベルクの協奏曲は、いよいよ神との合一に直面する作曲家の一か八かの賭け。安定の中にある「不安定」こそブーレーズの目指したものなのか。

音世界の土台を据えるためにいろいろな原則を創造するとき、同時にそれに対する背反も発見しなければならないし、同時にまた断固としてこの背反を利用しなければならない。それによって、硬直したシステムを破壊し、一種の不完全さやゆがみを創造し、必要であれば生命を作り出すことができるのである。土台には規律や厳格さが必要だが、無秩序はたえず規律と闘わなければならない。
~同上書P92

世の中の相対の、必然的矛盾と生涯闘い続けたのがシェーンベルクであり、ブーレーズだったのかも。

 

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