エイプリル・フールにグレン・グールドを

beethoven_sonate2_gould.jpg一昨日の「早わかりクラシック音楽講座」はテーマがベートーヴェンの「田園」交響曲だったので、当時のベートーヴェンの闘争的な心境を表す「熱情」ソナタの第1楽章を聴いていただこうといつものように愛知とし子に演奏をしてもらった。このソナタのモチーフは「運命」交響曲同様4つの音。ほとんどこの交響曲と双子ではないかと思われるほど激情的な主題はそっくりそのままである。講座が終わった後、ご参加いただいたともみさんに声を掛けていただき、「ところで、グールドの『熱情』ソナタは聴かれました?テンポが倍くらい違うんじゃないかと思うくらい遅いんですよ」と仰る。

実は僕のレコード棚には、グールドが亡くなった1982年に追悼盤として再発されたモーツァルトの「ピアノ・ソナタ全集」のレコードが鎮座している。おそらく1度か2度しかレコード針を落としていない新品同様のLPボックス・セットである。それは、当時バックハウスクラウスのモーツァルトを聴き始め、いろいろなピアニストの演奏を聴いてみたいと思っていたこととグールドの弾くバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を初めて聴きぶっ飛んだという経験が合わさってレコード店で見かけるなり大枚をはたいて購入したものである。しかし、どのソナタもテンポが極端に速過ぎたり、これでもかというくらい遅かったりと、当時の僕の耳では理解できない風変わりな演奏だったのでそのまま封印してしまったのである。以来、彼のモーツァルトは一度も聴いていない。しかも、それに懲りたのかグールドに関してはバッハ以外せいぜいブラームスの音盤を取り出して聴くのが関の山で、当然ながらベートーヴェンは一度も聴いていなかったし、もちろん持ってもいなかった。
とはいえ、先日のともみさんの言葉が気になり、しかもタワーレコードのポイント・カードが貯まっていたので、新宿南口でカウンセリングがあったのをついでに件のグールドの「熱情」を購入した。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調作品57「熱情」
グレン・グールド(ピアノ)

うおー、遅い。狐か狸に化かされたのかと思うほど常識外れの演奏だ。そういえば今日はエイプリル・フールでもあるから化かされついでをいいことに熱心に耳を傾けてみると・・・、意外に違和感がないのだ。モーツァルトの時に感じたほどの拒絶感が皆無である。
最近だとポゴレリッチが似たような演奏をするかもなぁ、と考えながら熟読ならぬ熟聴すると、楽章が進むにつれその世界にもっていかれてしまう。そういう「魔法」がこの中にはある。グレン・グールドというピアニストに関しては先入観で決してはかれない「何か」が必ずある。彼が弾くとその解釈が途端に「必然性」を帯びてくるから不思議だ。これは名演です。異形でありながら人智を超えている。これで他のソナタも楽しみになった。じっくり聴いてみよう。

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