シャイー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管 メンデルスゾーン 交響曲第3番「スコットランド」(1842ロンドン稿)(2009.1Live)ほか

大自然を謳歌し、得たインスピレーションをそのまま五線譜に書き留めることができたなら、それはどれほど心地良い、感動の体験になることか。

1829年夏、20歳のメンデルスゾーンは友人とともにスコットランドを初めて訪れた。旅の拠点となったエディンバラでは、悲劇の女王メアリー・スチュアートゆかりの城として名高いホリルード宮殿も観光し、ベルリンの家族にあてて次のように報告している(7月30日の手紙)。「深い黄昏の中、私たちは今日、女王メアリーが人生を送り、愛を営んだ宮殿へ行きました。そこにはひとつの小部屋があります。扉近くには螺旋階段。彼らはそこを昇り、小部屋にリッチョを見つけ、外へ引きずり出し、3つ目の部屋の真っ暗な角で、殺害したのです。宮殿脇の礼拝堂には今は屋根がなく、草や蔦が中に茂っています。今は壊れたその祭壇で、メアリーはスコットランド女王に戴冠されました。すべてが壊れ、朽ち、そこに明るい空が光を差し込んでいます。思うに、私は今日そこで、私のスコットランド交響曲の始まりを見つけました」。
UCCD-1249ライナーノーツ

情景や思念が克明に記された書簡からは、楽想を得たことによる希望の思いが読み取れる。それにしても残された冒頭のスケッチが、いかに実際の音響とほぼ一致するか、驚異的ですらある。

メンデルスゾーン・ディスカバリーズ
・交響曲第3番イ短調作品56「スコットランド」(1842年ロンドン稿、トーマス・シュミット=ベステ校訂版)(2009.1.22&23Live)
・「スコットランド」交響曲冒頭のスケッチ(1829年)(オーケストレーション:クリスティアン・ヴォス)(2009.1.22&23Live)
・ピアノ協奏曲第3番ホ短調(1842/44)(2006年マルチェロ・ブファリーニ補完版)(2009.1.22&23Live)
・序曲「ヘブリディーズ諸島」作品26(「フィンガルの洞窟」)(1830年ローマ稿、クリストファー・ホグウッド校訂版)(2006.9.7&8Live)
ロベルト・プロッセダ(ピアノ)
リッカルド・シャイー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

モーツァルトと同様、インスピレーションの天才。
モーツァルトと異なるのは、推敲を重ねに重ねた上で、重厚な、また浪漫の薫る作品を世に送り出す才能の妙と言えようか。傑作「スコットランド」交響曲が、斬新なスタイルで、また調和の中で鳴り響く様子に、僕は感動する。2年半前に聴いた、マルク・ミンコフスキ指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏は、もっと軽快で、より透明感のあるものだったように思うが、シャイーの演奏はすこぶる厚く、その上深遠だ。

音楽は、現実と夢の狭間を往来する。
目覚めた刹那の、あの何とも心地良い、半覚醒状態を喚起する魔法。それは、ある種サスペンスだ。

自己批判の末の改定前の序曲「ヘブリディーズ諸島」では、聴き慣れないパートが頻出し、まとまりがないどころか、メンデルスゾーンの第一念の素晴らしさが確認できる。エクトル・ベルリオーズの回想。

ローマで私は、あの柔らかく繊細な音の織りなしと、豊かな色彩をあわせもった序曲《ヘブリディーズ諸島》を初めて聴き、すっかり魅了された。メンデルスゾーンは完成させたばかりのこの作品をピアノで弾いてくれた。私はそこからきわめて正確な曲想を感じとることができた。難しいオーケストラの総譜を一台のピアノで表現することにかけて、彼は驚異的な才能があった。
~同上ライナーノーツ

なるほどメンデルスゾーンは、ブルックナーに負けず劣らぬ革新性と創造性を擁していたのだともいえる。シャイーが「ディスカバリーズ」と名付けた由もわかるというもの。演奏は斬新というより、むしろこれが決定稿であるかのように堂々と響かせるもの。

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