ボレアス四重奏団のクリストファー・タイ イン・ノミネ(2013.10録音)を聴いて思ふ

大英帝国では17世紀のヘンリー・パーセル以降、音楽史的に空白時代が長かったといわれる。

十一世紀以前のイギリスは多数の民族の到来によって錯綜していた。ブリトン人、アングル人、サクソン人が先住していたうえに、そこへケルト人、ローマ人、ゲルマン人、スカンディナヴィア人、イベリア人などがやってきて、最後にノルマン人が加わった。大陸の主要な民族や部族は、みんな、あのブリテンでアイルランドでウェールズな島々に来ていたのだ。全部で六〇〇〇もある島々だから、どこに誰が住みこんでも平気だった。
この混交が進むにつれて、本来は区別されるべきだったはずの「ブリティッシュ」と「イングリッシュ」との境い目が曖昧になる。いまは我がもの顔で地球を席巻している「英語」とは、こうした混成交差する民族たちの曖昧な言語混合が生み出した人為言語だ。
松岡正剛「擬MODOKI—『世』あるいは別様の可能性」(春秋社)P108

英国の成立事情をひも解いての言葉の人為性というのは、自ずとそこから生まれる文化にも影響を与えたのだろうか?なるほど音楽的に不毛の時代が続いたのにはそういう理由もなきにしも非ずか。

(エドワード6世の音楽教師を務めたといわれる)16世紀英国の作曲家クリストファー・タイのリコーダー・コンソートのための作品集。
縦笛の優しい音色に癒される。

音楽的DNAはジョン・タヴァナー(おそらくルネサンス期のイングランドにおいて最も有名かつ才能ある音楽家)によるものだという。「イン・ドミネ」の、宗教的意味合いを秘め、単色の淡い音彩は、聴く者を数百年も昔の世界に誘ってくれる。美しい。

イン・ノミネ―リコーダー・コンソートのための作品集
ジョン・タヴァナー:イン・ノミネ
クリストファー・タイ:
・イン・ノミネ「リポート」
・イン・ノミネ「すでに甦りて、ここにいまさず」
・イン・ノミネ
・安息日が過ぎてIII
・イン・ノミネ「しっかりつかまれ」
・イン・ノミネ「めったに見られない」
・イン・ノミネ「潔白」
・神への賛課(リコーダー・アンサンブル編)
・イン・ノミネ「ラウンド」
・4声のイン・ノミネ
・イン・ノミネ「レ・ラ・レ」
・6声のイン・ノミネ
・蘇りたまいしキリストは
・イン・ノミネ「すっかり自由」
・イン・ノミネ「信頼」
・イン・ノミネ「そう言ってくれ」
・イン・ノミネ「入ります」
・安息日が過ぎてII
・イン・ノミネ「わが死」
・イン・ノミネ「もう泣くのはおやめ、レイチェル」
・イン・ノミネ「レイチェルのシクシク」
・主は彼らを愛したもうた(リコーダー・アンサンブル編)
・ファンタジア「柴の中で」
・イン・ノミネ「さらばわが愛しき人よ、永遠に」
・イン・ノミネ「フォロー・ミー」
・イン・ノミネ「信じなさい」
・5声のイン・ノミネ
・おお、祝福されし光なる三位一体
ブレーメン・ボレアス四重奏団
ハン・トル(リコーダー)(2013.10.4-6録音)

イン・ノミネとは単旋聖歌「なんじ聖三位一体に栄光あれ」の一部を定旋律とする音楽であるが、早朝の瞑想に向く、静謐な調べは夜更けの疲労にも効能があろう。

永劫につづく肉体的呵責の苦痛が、まるでまざまざと、目に見えるようであり、不安と恐怖の悪寒にふるえると、たちまち全身、汗びっしょりになっているのだった。とうとう、彼は、絶望的に呟いた。
「それにしても、僕の罪じゃない。いくらなんでも、無理に信じることはできないのだ。もし本当に、神があって、僕が、正真正銘、信じられないからといって、それを罰するというのなら、これはもう仕方がない。」
サマセット・モーム/中野好夫訳「人間の絆Ⅰ」(新潮文庫)P199

自己弁護せずとも、神はどんな人をも決して罰することなく受け入れるものだと思う。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む