あれから30年もの月日が流れていることを悟る。
時グスリという言葉があるけれど、この人の歌は永遠だ。たぶん、この先もずっと廃れない。
長いあいだ、ラジオはヒットソングを生み出す原点でした。今、若い人がスマホで音楽を聴いていて、耳が劣化するとか、音質がわかってないとかいうけど、全然そんなことはないと思いますよ。僕たちの時代だって、トランジスタラジオしかなかったんだから。ラーメン屋の油まみれのラジオで聴いても、いい曲なら感動した。耳って、想像以上に鋭敏なんですよ。音質も大切だけど、本当に重要なのはコンテンツ(楽曲)だと思います。よく「昔の音楽は良かった。それに比べて今のは・・・」などと言いますが、これもそんなことはないと思っています。いい曲だから時代を超えて残っただけの話で。50年代や60年代にも、つまんない音楽はたくさんあった。それが淘汰されて、いいものだけが残っただけの話なんですよ。
~山下達郎のBrutus Songbook-最高の音楽との出会い方(マガジンハウス)P73-74
重要なものがコンテンツであることは間違いない。
ちなみに、山下達郎が“私上”最高の日本人職業作詞・訳詞家は、岩谷時子だという。
この人の詩は、本当に良い。
子どもの頃、僕が最初に買ってもらったレコードは、ピンキーとキラーズの「恋の季節」だった。もちろんその時は、作詞が岩谷時子だということは知らない。あれから50年近い月日が流れていることを悟る。
恋は私の恋は
〇〇〇〇〇〇えたよ
死ぬまで私を 〇〇〇〇〇〇いと
〇〇〇〇〇〇た 恋の季節よ
(岩谷時子作詞)
1968年の第10回レコード大賞新人賞を獲得したこの楽曲の価値は今でも変わることなく、永遠だ。
1988年当時、繰り返し聴いた山下達郎の「僕の中の少年」が懐かしい。
粒揃いの楽曲群。いずれもが今聴いても新しい。
中でも、桑田佳祐、原由子、竹内まりやをバッキング・ヴォーカルに据えた「蒼茫」の、時間が止まったような音調が実に美しい。
〇〇〇〇〇〇すきまを
やさしさは〇〇〇〇〇〇の
〇〇〇〇〇〇の意味
誰よりも〇〇〇〇〇〇たい
(山下達郎作詞)
だからこそ彼の音楽は普遍的なのだ。
それに比して、日本語で歌われたロックの草分けでありますはっぴいえんどは、メジャーなヒットは一曲もありませんが、ミュージシャンを育成、触発する、日本語でロックミュージックを歌うということに関しては、圧倒的にはっぴいえんどの影響が大きい。日本語のフォークとロックの形を築いた最初は、岡林信康さんから続くはっぴいえんどの流れであることは言うまでもありません。
~同上誌P27
松本隆の詩といい、大瀧詠一の音楽といい、やはりここにも永遠がある。
〇〇〇〇〇〇しい通りに
雨に憑れた〇〇〇〇〇〇う 雨あがり
の街に 〇〇〇〇〇〇る
〇〇〇〇〇〇 ぼくはみている
(松本隆作詞)
何でもない光景がどうしてこうも詩的に表現し得るのか。
Personnel
鈴木茂 (lead guitar, celesta)
大瀧詠一 (12st. guitar, 6st.guitar, combo and vocal)
細野晴臣 (electric bass, keyboards, 6st. guitar and vocal)
松本隆 (drums, percussions)
日本語の力というものに、僕は目を瞠る。
・わがうた/パリ旅情(2016.4.21&22録音)
神野靖子(ソプラノ)
小原孝(ピアノ)
可憐な童謡「お菓子と娘」(西條八十作詞、橋本國彦作曲)の透明感。また、「信田の藪」(野口雨情作詩、藤井清水作曲)の悲しい響きに思わず涙する。あるいは、「白月」(三木露風作詩、本居長世作曲)の、季節の映える詩と音楽の協働にため息がもれる。
特筆すべきは歌曲集「パリ旅情」(深尾須磨子作詩、高田三郎作曲)。第5曲「降誕節前夜」の厳粛な音楽、静かに盛り上がる歌、深尾の心に映るパリの風景が目の前に現れるような実存感。神野靖子の繊細な表現に快哉を叫ぶ。
気まぐれなパリも
こよいはおとなしく
鐘のつばさに
抱かれている
赤いろうそくに
火を点し
こころを点し
かめにリヴィエラの
花を盛り
私も満開の花に
なりきっている
(深尾須磨子作詩)
詩人の孤独が何と心に迫ることか。そうして僕は、最後に再び山下達郎を聴く。
「クリスマス・イブ」(1983)。
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