創造と破壊

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かなりなレベルの専門知識を要するが、菊地成孔+大谷能生による「憂鬱と官能を教えた学校」が滅法面白い。部分的に知識不足で理解できない箇所もあるにはある。それでも貪るように読ませるこの本の、というより菊地氏の語り口調(それに伴う語彙力も!)は絶大な力を持っている。おそらく一流のミュージシャンならそうなのだろうが、聴衆を巻き込むプレゼンテーション能力が半端でないのだろう。
調律の完成から完廃までを綴った第1講を読むだけでも、音楽の奥深さと同時に、形を作ったのも壊したのも人間であり、「音楽」が限られたルール、すなわち枠組の中で「遊泳」しているものなんだということがよくわかる。それにしても、J.S.バッハによって完成されケージによって壊された250年くらいの歴史をざっくりとつかまえて非常にわかりやすく教示してくれるところが何とも圧巻。

20年以上前だと思うが、DGから”20th Century Classics”というシリーズがリリースされた時、現代音楽というものに疎かった僕は、勉強がてら主要な音盤を何枚か手に入れ、繰り返し聴いた。新ウィーン楽派までは難なく受容できるものの、戦後の前衛音楽についてはやっぱりよくわからなかった。

その時の1枚が手元にある。以前採り上げた音盤だが(先の書籍を読んでいてまた採り上げたくなった)、ルトスワフスキとペンデレツキ、そして黛とケージのカルテットを収録したもの。裏面のインデックスを見てみると、当時はその全員が存命中だったよう。ペンデレツキ以外の諸氏が全員鬼籍に入られた今、あらためて聴いてみて、前衛とはいえ、曖昧とはいえ、それぞれがまだまだ調性感のある、きちんとした音楽だということが理解できて面白い。少なくとも先の書籍を読みながら、音楽というものを少し高いところから俯瞰するように、これらの作品を聴いてみるだけで、つい昨日とはまったく違った感じ方ができるところが何とも興味深い。願わくばこの講義を実際に受講してみたかった。

・ルトスワフスキ:弦楽四重奏曲(1964)
・ペンデレツキ:弦楽四重奏曲(1960)
・黛敏郎:弦楽四重奏のための前奏曲(1961)
・ジョン・ケージ:4パーツの弦楽四重奏曲(1950)
ラサール四重奏団

日本人だからだろうか、やっぱり黛の音楽にシンパシーを感じる。音楽は世界共通言語などと言いながら、どうも日本的なもの、東洋的なもの、あるいは西洋的などという区別感覚を無意識に持っているようだ。「世界はひとつ」と理想を掲げながら、深層心理では壁を作っているようなものなのか。それに、ケージの音楽にはやっぱりバッハの息吹が聴こえる。完成者と破壊者・・・、つながってるのかな。

調律がまだ不明瞭だった大昔は音楽に西洋も東洋も区別はなかったようだから、人間が作ったシステムの中に飼われ、所詮その中だけで「自由」とか「調和」とか叫んでるようなものだな・・・。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
じつは私もこの1~2年、岡本さんの日々のブログと同じくらいに、菊地成孔+大谷能生の本から教わるところ、影響されるところも大なのです。
ぜひ次は同コンビによる「東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録」(歴史編+キーワード編 文春文庫)
http://www.amazon.co.jp/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC%E2%80%95%E6%9D%B1%E5%A4%A7%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%BA%E8%AC%9B%E7%BE%A9%E9%8C%B2%E3%83%BB%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%B7%A8-%E6%96%87%E6%98%A5%E6%96%87%E5%BA%AB-%E8%8F%8A%E5%9C%B0-%E6%88%90%E5%AD%94/dp/4167753537/ref=pd_cp_b_2
そして分厚い単行本「M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究」(菊地 成孔 ・ 大谷 能生 (著) エスクアイア マガジン ジャパン)
http://classic.opus-3.net/blog/cat49/post-363/index.php#comment-1543
までも読み進まれてみてください。
>つい昨日とはまったく違った感じ方ができるところが何とも興味深い。
同感です!! だから音楽の趣味っていくつになってもやめられませんよね(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
本当に感謝いたします。
>岡本さんの日々のブログと同じくらいに
いやいや、この本に比べると僕のブログなど「糞」みたいなものです・・・(涙)。
浅薄さに情けなくなってくるくらいです。
それにしてもご紹介いただいた本、以前もご紹介していただいていたのに他のにかまけて読んでませんでした。大反省です。早速「アルバート・アイラー」も注文しました。「マイルス研究」は絶版なんですかね?ちょっと他でも探してみようと思います。
アルバート・アイラーは「スピリチュアル・ユニティー」しか聴いたことがありませんが、興味深いです。
ともかく、とても気に入りました。勉強します!

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