カラヤン指揮ベルリン・フィルのリスト管弦楽作品集(1960-75録音)を聴いて思ふ

僕はフランツ・リストの音楽が一向に理解できない。
外面的な大袈裟さばかりが耳について、正直心にまで届いたためしがないのである。
ところが、天才リヒャルト・ワーグナーは、驚いたことに(彼が義理の父親であるがゆえの思い入れもあるのかもしれないが)リストの交響詩を絶賛する。当時から決して人気が高かったとはいえないリストの交響作品を極めて緻密に論じ、擁護するのだから恐れ入る。

これに対して私たちは「ダンテ交響曲」やこれに類するリストの諸作品を考察しても、それ自体に備わる性格そのものから、これらの作品が現代の淀んだときの流れの中では時間と空間に適合しないことを解明することになるのが落ちである。リストの構想したこれらの音楽作品が、ある種の公衆にはあまりに法外なものであることは明らかである。何しろ、彼らは「ファウスト」に接する場合でも、あの浅薄なグノーの手になるオペラや、非常に誇張の多いシューマンの手になる演奏会の音楽でまやかしの満足を味わっているのだ。
「時間と空間における公衆」(山地良造訳)(1878)
三光長治監修「ワーグナー著作集5 宗教と芸術」(第三文明社)P77

ワーグナーはリストの諸作品が、時代の一歩も二歩も先を行っていたというのだろうか。
あるいは、聖なる道を選択したリストの作品が、俗世間に受け容れられるには一層の時間を要すると言いたかったのだろうか。

いすれにせよ、彼ら(公衆)にとっておのれを流れにゆだねることなど雑作もないのである。そして彼らは俗悪という大海の中に呑み込まれて行くことには、まったく気がつかないでいるのである。大河の流れに抗して泳ぐことは、これに必要なとてつもない努力を促す抗い難い衝動を感じることのない人たちにとっては、愚かな行動のように思われるに違いない。しかし実際に、私たちをさらって行く生の流れに抵抗するためには、その流れに逆らって大河の源に進む以外にないのである。
~同上書P79

果たしてリストの音楽が、「大河の源」に向い、「大河の源」を形成するものであるならば、もっと心を、魂を震わせるだけの波動に満ちているはずではないのか(あくまで個人的な感覚だけれど)。ワーグナーの解釈は、殊更に肯定的過ぎるものであるように現代の僕たちには思われてならない。

リストの交響作品の解釈は、リヒャルト・シュトラウスの作品同様、ヘルベルト・フォン・カラヤンの右に出る者はいないだろう。彼が外面的効果を狙えば狙うほど、音楽は力漲る。「メフィスト・ワルツ」のデモーニッシュな喜び、そして、「レ・プレリュード」の、クライマックスに向けての効果的な爆音と、祈りのためのあまりの弱音はカラヤンならではの納得の表現。

リスト:
・メフィスト・ワルツ(1861)(1971.9録音)
・交響詩第3番「前奏曲」S97/R414(1848-53)(1967.4録音)
・ハンガリー民謡の旋律による幻想曲(S123/R458)(1852)(1960.12録音)
シューラ・チェルカスキー(ピアノ)
・ハンガリー狂詩曲第5番S359-5(1975.10録音)
・交響詩第6番「マゼッパ」S100/R417(1851-54)(1961.2録音)
・ハンガリー狂詩曲第2番S359-2(1975.10録音)
・交響詩第2番「タッソー、悲劇と勝利」S96/R413(1848-54)(1975.10録音)
・ハンガリー狂詩曲第4番S359-4(ミュラー=ベルクハウス版)(1967.4録音)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

神聖なる(?)音楽が、何と映画音楽的効果をもってリアルに響くことか。これこそまさにリストが求めた、シーンの音化。そして、ハンガリー狂詩曲は、自身の故郷の、というより幼少から刷り込まれたであろう民族的音調がこれまた見事に新たな作品として昇華したもので、カラヤンが録音した3曲は、ベルリン・フィルの機能的なアンサンブルに彩られ、実にソフィスティケートされた音楽が紡がれる。これぞ音の戯れ!!

ちなみに、「コジマの日記」には、リヒャルトとコジマの、父フランツに関しての興味深い見解が随所に記されている。

リヒャルトは父の《ローレライ》の旋律を歌い、その大胆な主題を讃える。二人で父の話に。「目立たぬところも含めて、すべてが興味深い。ひとつの歌Cantoになっていて、バスをつけるのが難しい」と、彼はにこやかに付け加えた。
(1872年11月30日土曜日)
三光長治・池上純一・池上弘子訳「コジマの日記3」(東海大学出版会)P441

なるほど、リストの音楽を理解する上での大いなるヒントになるかも知れぬ。

 

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