アラバマ・ソング by クルト・ヴァイル

utelemper_sings_weil.jpgくっきりと晴れたかと思うと、鬱陶しい雨。天気が安定しないが、表と裏があるようにこういう時こそ生きているんだという実感が湧くから面白いものである。ここのところしばらく、時間が許せばチャイコフスキーの「マンフレッド」交響曲を聴いている。聴けば聴くほど、なぜ作曲者本人が納得しなかったのかわからなくなるほどの深い内容を湛えた名作であることがわかる。確かにこの標題交響曲が舞台にかけられることは少ない。後期の3つの交響曲が相当なポピュラリティーを獲得していることを考えると、第4番と第5番の間に書かれているこの音楽が聴衆に受け容れられ難いのは不思議なものである。
この楽曲が、イギリスのロマン派詩人バイロン卿の劇詩「マンフレッド」にインスパイアされて書かれた標題音楽であることがそのハードルをあげているのか、それとも1時間近くに及ぶ長大さに問題があるのか。19世紀末の初演当時のことを考えるとおそらくそういう推測も成り立とうが、少なくともベルリオーズの「幻想交響曲」に影響を受けていること、そしてそのベルリオーズの交響曲が当時から十分に受容されていたことを考え合わせると、この事実は簡単に理解できない。チャイコフスキー独特の甘いメロディ、オーケストラの色彩感など「幻想」に比しても決して引けをとらないものだと思うし、一度「わかれば」病み付きになるような魅力をもつ音楽だと思うから。

ただし、いずれにせよバイロンの劇詩「マンフレッド」の方も繰り返し読み、いろいろと思考を巡らせ、理解を深めた上でこの音楽については書くほうが良いと思うので、今日はあえて採り上げることはよそう。

ところで、2010年ワールドカップ南アフリカ大会の1次リーグ組み合わせ抽選会が行われたそうだ。サッカーのことはよくわからない。さほど興味も持たないので、日本がどこの国と同じ組になろうが知ったことではないのだが、世間的にはその結果に一喜一憂する姿がテレビなどに映し出されるのをみると、熱狂的なファンがどんな世界にでもいるものなんだとあくまで冷静に感慨深い。そういえば、2002年の日韓共同開催のワールドカップの時、ちょうどヨーロッパに滞在していた僕は、ベルリンを旅し、奇しくもそれが準決勝の当日とぶつかっていたことを思い出した。そう、「ドイツ×韓国」戦のまさにその日にベルリン市内をぶらついていたのである。ちょうど試合が終わった直後だったのだろう、メインストリートというメインストリートが見る見るうちに狂喜乱舞した市民の車でいっぱいになり、ひどい渋滞を巻き起こした。何人もの若者が僕を見るなり、指を差し、嘲笑する。挑発的な態度をとる輩もたくさんいた。前述のようにワールドカップというものに興味がない僕は何が起こったのかその場でわからなかった。そう、ドイツが韓国に勝ったんだということもその日の夜になって初めて知った。あとからよくよく考えると、どうやら僕を韓国人と間違っていたようなのである。彼らが僕を見下すような態度だったのはそういう理由だったのだ。あのとき韓国が勝っていたらどうなっていたのだろう?ぼこぼこにされていたかもしれない。そう思うと恐ろしくなる。

旅の最中、ベルリンではコーミッシェ・オーパーで「椿姫」を確か観た。さすがに季節はずれでフィルハーモニーではコンサートがなかったように記憶する。その後、場末のバーのようなところで軽くお酒を飲んだか・・・。

1920年代、ワイマール共和国の時代、ナチス登場前の束の間の「安定期」といえるこの時代に、ベルリンではキャバレー音楽が流行した。

ウテ・レンパーsingsクルト・ヴァイル
ウテ・レンパー(ヴォーカル)
ジョン・マウチェリー指揮RIASベルリン室内アンサンブル
ヴォルフガング・マイヤー(ハルモニウム)、カイ・ラウテンブルク(ピアノ)

ちなみに、CDリーフレットに、この5月にお亡くなりになった黒田恭一氏が寄稿されている。

「アンダーグラウンドものとはいわないまでも、すくなくともサニー・サイド・オブ・ザ・ストリートのものとは考えにくい、若干は世間に背をむけたような気配をただよわせているのがクルト・ワイルの歌である。そのような歌を、このような声で、こんな感じでうたってしまっていいのか、と最初は、ウテ・レンパーのうたうクルト・ワイルの歌をきいて意表をつかれた。・・・きっと、このウテ・レンパーのうたうクルト・ワイルのソングをきいて、クルト・ワイルの音楽を好きになる人がたくさんいるにちがいない。」

うん、まさに僕がそうである。じめじめとした空気感をもつヴァイルの歌がからっと明るいそれに生まれ変わっている。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
>ここのところしばらく、時間が許せばチャイコフスキーの「マンフレッド」交響曲を聴いている。
前にも一度コメントしたかもしれませんが、私がこの曲の実演で一番感動しましたのは、コバケン&名フィルの演奏で、CDにもなっています。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2647574
私は、明治の人間じゃあるまいし、「舶来」演奏家をありがたがる趣味は、全然といっていいくらいありませんので、あまり世論やマスコミが騒がない「日本人」や「日本代表」で、本場を超える真に良いものを自分の力で見つけるのが、粋だと思っています。それにしても「マンフレッド」、いい曲ですね。
>サッカーのことはよくわからない。さほど興味も持たない
いけませんねぇ(笑)。ショスタコも、朝比奈先生も、チェリビダッケも大好きだったサッカーに興味が無いなんて(笑)。
でも、「人間力」を身につけるのには、スポーツは欠かせないんじゃないですか?
サッカーや野球といった団体競技は、個と組織、個と社会、個と国家といったことを、机上の理論だけではなく、身を持って体感して考えるための、格好の教材です(ちなみにオーケストラで楽器を演奏する体験にも、同様の効果があります)。
ウテ・レンパーのクルト・ワイル、いいですね、カッコいいです。ご紹介のCDは持っていませんが、「マック・ザ・ナイフ」など最高だと思います。この人、ドイツ人なのにシャンソンなんかも上手いですよね。私も久々に聴きたくなりました。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>「日本人」や「日本代表」で、本場を超える真に良いものを自分の力で見つけるのが、粋だと思っています。それにしても「マンフレッド」、いい曲ですね。
同感です。コバケン&名フィルは良さそうですね(実演だとなお凄そうです)。
>でも、「人間力」を身につけるのには、スポーツは欠かせないんじゃないですか?
確かにそうですね。学ぶべきことは多いので意識を変えねばなりません。
>この人、ドイツ人なのにシャンソンなんかも上手いですよね。
おっしゃるとおりですね。抜群です。

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