シューマン変奏曲

clara_schumann_gelius.jpg晩年の厳格な風貌からおよそ想像つき難いのだが、最晩年の孤高のピアノ小品集とは違った意味で、ブラームスの特に若き日のピアノ作品にみられるロマンティックで希望に満ち、夢見るような表情はいつ触れても心が震えるほど感動的だ。例えば、昨日聴いたシューマンの「音楽帳Ⅰ」を主題にし、16の変奏を連ねた「ロベルト・シューマンの主題による変奏曲作品9」は、ブラームスの他の諸作品に比べ、舞台にかけられることは極めて少ないように思うが、実にチャーミングで、繰り返し聴くほどに、青年ブラームスの素直さと繊細さがよく伝わる音楽に仕上がっている傑作だ(ブラームス党の僕は、若い頃から全作品を愛聴してきたが、そういう僕も数ある歌曲の大半を含めほんの数年前まで完璧に無視していた楽曲なのだが)。

もうかれこれ15年になる。ペーター・レーゼルがドイツ・シャルプラッテンに録音したブラームスのピアノ曲全集が「20周年記念シリーズ」の廉価で発売された時、その全てを購入した。こういうセット物は余程集中して時間をかけ聴き込まないとなかなか自分のものにならないが、その当時(もちろん今も昔もだが)は他に聴きたい音盤、音楽が山ほどあり、ほんの1回ずつ聴いただけで、ほとんど棚の奥に眠っているという状態が何年も続いた。ここ数年、レーゼルの活躍を耳にするにつけ、ようやくあらためて興味を持つようになり、じっくり聴くことで、ブラームスの「天才」を再確認した。やっぱり涙が出るほど美しい。ブラームスの、尊敬するロベルト&クララ・シューマン夫妻への「愛」がこれほどまでに直接的に表現される音楽はなかなか見当たるまい。

ところで、ここにもう1枚音盤がある。そこには、同じロベルトの「音楽帳Ⅰ」を主題にして創作されたもうひとつの変奏曲が収められている。

クララ・シューマン:
・スケルツォ作品14
・ロマンス作品21
・トッカーティーナ~音楽夜会作品6
・3つのロマンス作品11~第1番&第2番
・ロベルト・シューマンの主題による変奏曲作品20
・ピアノとヴァイオリンのための3つのロマンス作品22
・ピアノ三重奏曲作品17
ミカエラ・ゲリウス(ピアノ)
スレーテン・クルスティス(ヴァイオリン)
ステファン・ハーク(チェロ)

ブラームスの「愛」以上に「愛」の詰まった愛の曲。第7変奏におけるロベルトの主題とクララの「ロマンス・ヴァリエ作品3」のメロディの絡みは、妻から夫へ愛の囁きであり、この部分を聴くだけで、心が熱くなる(このサイトが参考になる)。シューマンの「音楽帳Ⅰ」、クララのロベルト変奏曲、そしてヨハネスのシューマン変奏曲は、3人の切っても切れない「関係」をそれぞれの心で表現する。

クララとヨハネスの、主題を同じくした2つの変奏曲の聴き比べ。こういう音楽を聴くと3人に起こった出来事がたとえどんなことであれ我々にはもはや関係ないと思える。真実が何かなんて詮索などしなくてよし。

それにしても、この音盤のジャケットのクララはまるで滝川クリステル・・・。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
>シューマンの「音楽帳Ⅰ」、クララのロベルト変奏曲、そしてヨハネスのシューマン変奏曲は、3人の切っても切れない「関係」をそれぞれの心で表現する。
同感です。でも、私はこういう切り口で責められると、やっぱりブラームスのことがウザいなあ(笑)。仮に岡本さんがロベルト・シューマンで奥様がクララだとして、ブラームスみたいに奥様にまとわりつく間男が現れたら、岡本さんは彼のこと、すべてを許すんですね?(笑) 私なら許せません、「命くれない」精神が身上ですから・・・(笑)。
クララの視点から考えると、ロベルト・シューマンとの結婚に猛反対し、徹底的に結婚妨害工作を行った、父フリードリヒとの親子関係も気になります。父親により似たタイプの男性は、シューマンだったのかブラームスだったのか?、あるいは両方まったく父の性格とは異なるのか? 彼女の恋愛は、父への反発・反抗とファザコンがどう影響しあったのでしょうか?
クララが作った歌曲も宝石のように美しいですよ。
ロベルト&クララ・シューマン / 歌曲集
ボニー&アシュケナージ
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%AD%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88-%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3-%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%B1%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%B8-%E3%83%B4%E3%83%A9%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%AB-%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%A9/dp/B00005FKP3/ref=sr_1_4?s=music&ie=UTF8&qid=1289338329&sr=1-4
私の持っているCDは国内盤なので、対訳も付いています。愛聴盤です。
子供が買った「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」が、いい歌揃いで最高です。
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%84%E3%81%8D%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%B0%E3%81%8B%E3%82%8A~%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%BABEST%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3~%E3%80%90%E5%88%9D%E5%9B%9E%E7%94%9F%E7%94%A3%E9%99%90%E5%AE%9A%E7%9B%A4%E3%80%91-%E3%81%84%E3%81%8D%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%8C%E3%81%8B%E3%82%8A/dp/B0040IN3N4/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1289340698&sr=1-1
あの3人の関係、シューマン夫妻とブラームスみたいにだけはなって欲しくないなあ・・・すっかり保守的になったお父さん世代としては・・・(微笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
シューマン夫妻とブラームスの三角関係についてはいろんな角度から空想してみるのが面白いですね。実際に自分自身がロベルトの立場だったら・・・、まぁ許せないでしょうね(笑)。人間そんなものです。他人事だからいろいろと勝手に推論できるのであって。
>父フリードリヒとの親子関係も気になります。
同感です。僕はロベルトの方がフリードリヒ似だったんじゃないかと思います。ブラームスは、彼自身マザコンですから、どちらかというとクララとそっくりだったのでは、と想像します。だから、お互いに魅かれあうも決定的な関係にはなれなかった・・・、という感じで。
クララの歌曲集も興味深いですね。ご紹介のCD未聴です。聴いてみたいです。
>「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」
そもそもこういうグループがあったことすら知りませんでした。よって「あの3人の関係、シューマン夫妻とブラームスみたいにだけはなって欲しくないなあ・・」、このコメントについても言及できません。すいません。
いずれにせよ、ご紹介ありがとうございます。

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雅之

「いきものがかり」をご存じないとは! それはいかんです(遺憾です)。
いつかご紹介したけれど、とりあえず合唱曲になった「YELL(エール)」をもう一度聴いてみてください。
http://www.youtube.com/watch?v=1ggWMp-AFjo
http://www.youtube.com/watch?v=ODYxMdo0dJM
少なくとも、小・中・高・大学生くらいまでの人たちの間では「いきものがかり」は「常識」レベルです。学校でもプライベートでも多くの人たちに心から共感して歌われ、愛されているグループです。
私も大好きです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
思い出しました!以前ご紹介いただいた合唱曲!
しかし、それが「いきものがかり」と結びつきませんでした。
失礼いたしました。勉強いたします。

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