ブロンフマン&サロネン指揮ロスフィルのバルトーク協奏曲第2番(1993.5録音)ほかを聴いて思ふ

モーリス・ラヴェルのピアノ協奏曲(1929-31)は、モーツァルトとサン=サーンスの精神で作曲されたとはいえ、直前のアメリカ旅行で得たものが確実に刻み込まれている。母の故郷であるスペインはバスク地方の色あり、ガーシュウィンやストラヴィンスキーからの影響あり、またジャズからの影響もあるというように、いわばごった煮と言ってもいいくらい様々な要素が入り混じっている。それでも出て来たものは「洗練」の極み。ラヴェルの天才の成せる業である。

この協奏曲は、ほぼ同時期に作曲されたバルトークの協奏曲(1830-31)と双生児ではないのかと思えるほど、両者のフォルムには似たものがある。強いて言うなら、より民俗的志向、原始的志向の強いのがバルトークの方で、理知や感覚や、そういう観点からより繊細に磨きが掛けられているのがラヴェルだと言えるが、中身、すなわち内燃するパッションや放出されるエネルギーという点では、ほぼ同等の傑作たちだと僕は思う。

ラヴェル、晩年(1928)のアメリカ旅行での思い出。

この旅行にはたくさんのハイライトがあり、ラヴェルはエドガー・アラン・ポーの家を訪ね、ナイアガラの滝見物やグランド・キャニオン観光に行き、グランド・キャニオンの壮大な美しさに圧倒された。彼はバルトークやヴァレーズなどの旧友と再会し、文字どおり、何百人もの音楽家やファンに紹介された。
アービー・オレンシュタイン著/井上さつき訳「ラヴェル生涯と作品」(音楽之友社)P126

大自然に畏敬の念を抱くラヴェルは、そして彼の音楽は、当時からとても愛されていた。一方、バルトークは・・・。

私自身も含め、今世紀初頭の若いハンガリーの音楽家たちは、すでにほかのさまざまな領域においてフランス文化に関心を向けていた。彼ら(ドイツ人)にとってドビュッシーの出現が待っていた意味を想像するのは容易だろう。この芸術上の啓示によって、彼らはようやくフランスの音楽文化にも同様の関心を向けるようになったのだ。そしてわれわれがモーリス・ラヴェルの音楽を知った時、状況ははるかに確固たるものとなり、十全な意義を持つに至った。
「ラヴェルについて」
ベーラ・バルトーク/伊東信宏・太田峰夫訳「バルトーク音楽論選」(ちくま学芸文庫)P184-185

少なくともハンガリーにおいてラヴェルがいまだ大して認知されなかっただろう時代に、ラヴェルへの手放しの賞賛を綴れることがすごい。自己に厳しいバルトークは、もちろん他人にも厳しかったはず。その彼がラヴェルをドビュッシーの並び天才だと断言するのである。たぶん、二人はつながっていたのだろうと思う。
感情に流されず、官能すら排除しようと知性で、計算でフォルムを磨き上げるのがバルトークの常套。

バルトーク:
・ピアノ協奏曲第2番Sz.95(1993.5.3&4録音)
・ピアノ協奏曲第3番Sz.119(1994.10.17&18録音)
・ピアノ協奏曲第1番Sz.83(1994.10.17&18録音)
イェフィム・ブロンフマン(ピアノ)
エサ=ペッカ・サロネン指揮ロスアンジェルス・フィルハーモニック

躍動感あふれる、荒々しく野趣満ちる第2番第1楽章アレグロのクールさは、ひょっとするとサロネンの棒によるところが大きいのだろう。また、静謐な、ほとんど祈りの如くの第2楽章アダージョに、バルトークの天才、同時にブロンフマンの才能を思う。特に、中間部プレストの、いかにもバルトークらしい野人リズム(?)との対比が見事。そして、何より真骨頂は、第1楽章の鏡となる終楽章アレグロ・モルトの前進性。

遺言ともいえる第3番、それも第2楽章アダージョ・レリジオーソの此岸への別れのような哀しみの音調は、ラヴェルの緩徐楽章にも優るとも劣らぬ傑作。沈思黙考するブロンフマンのピアノが美しい。

宇多田ヒカルがバルトークに惹かれるのは、おそらく創造行為における発現の方法が極めて自分と近いだろうことを(無意識に)感じ取っているからだろう。

普段ある程度、色んなものにフタをするじゃないですか。コントロールするというか、自制心みたいなもの。自分でも見ないようにする部分があったりというのを、そこを一回突破しなきゃいけないので。そこのフタを開けて、なんか地獄のフタが開いたみたいなところを「開いた」ってなって、そこに突っ込んでいくっていう作業なので、本当に感情的なエネルギーをすごく消耗するというか。
(宇多田ヒカル)

創造とは、自身の深層に否が応でも切り込まなければいけない作業なんだ。

 

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