亡くなるその年の夏か、あるいはその前年か定かでないが、お忍びで来日し、避暑のため軽井沢に過ごしていたJohn Lennonとばったり遭遇したという友人がいる。Yokoや幼いSeanを伴ってごく「普通」に歩いていたからほとんど誰も気づかなかったらしいが、当人は突然の出逢いに吃驚したらしい。ただし、当時は高校生でまだそれほどThe BeatlesやJohnについて知識を持ち合わせていなかったから、それほど感動はなかったよう。今となっては残念で仕方がないらしいが。
つい1ヶ月ほど前、新宿を歩いていてイリーナ・メジューエワに会った。というか横断歩道ですれ違った。「誰それ?」という声が聞こえてきそうだが、このロシア生まれの可憐な女流ピアニストについては、その音楽を聴き、多少なりとも感動した人でないとすれ違っただけじゃ絶対にわからないだろう。普段着で、しかも眼鏡をかけて何事もなく歩いているのだから・・・。まぁ気づくほうもおかしいのだけれど(笑)。
僕もそれほど彼女の演奏に触れたわけではない。実演は知らず、いくつかのアルバムを耳にしたくらいしかないので大きなことは全く言えない。ただし、少なくともDENONからリリースされているメトネルの作品集を繰り返し聴く限りにおいて彼女のお淑やか(笑)で浪漫的な表現の中に、極めて革新的で前のめりの姿勢を垣間見ることができるところが何より素晴らしい。
ところで、イリーナは日本語が堪能なのだと!「仙台クラシックフェスティバル」のオフィシャル・ブログを見ていて知った。「見かけたら声をかけてくれ」とまである。知っていれば、声をかけたのに!(笑)
ここしばらくベートーヴェン漬けだったので、気分転換にコルトレーンでも聴いてみることにする。ベートーヴェン同様(いやそれ以上か)に革新的で、常に「進取の気性」を失わなかった彼の音楽は、没後40数年を経た今でも異彩を放つ。19世紀初頭のウィーンの聴衆が楽聖の「新しい」音楽に吃驚したように、20世紀のジャズ好きは進化するコルトレーンの音楽に良くも悪くも翻弄された。
John Coltrane:Ascension EditionⅠ(1965.6.28録音)
Personnel
John Coltrane(tenor sax)
McCoy Tyner(piano)
Jimmy Garrison(bass)
Elvin Jones(drums)
Archie Shepp & Pharoah Sanders(tenor sax)
John Tchicai & Marion Brown(alto sax)
Freddie Hubbard & Dewey Johnson(trumpets)
Art Davis(bass)
「何なんだ、これは?!」
「アセンション(次元上昇)」と名付けられたこのアルバムについては、初めて聴いた時さすがの僕も戸惑った。かのゴールデン・カルテットと、以降コルトレーンを支える新規メンバーとの壮絶な掛け合いというか、コルトレーンに挑戦状を叩きつけるその他大勢のメンバーとの何とも出鱈目にしか聞こえない(少なくとも最初はそう感じた)セッションに、最後まで聴きとおす力を持ち合わせなかった。
だから、もう何年もこのアルバムを聴くことはなかったが、クラシックもジャズも、ロックも歌謡曲も、そしてモダン・タンゴもボサノヴァも・・・、と様々なジャンルの音楽を聴き続けることで、随分ハードルが下がったようで、この耳触りだった音楽が不思議に心地良く感じるようになった。「即興」とは決して行き当たりばったりなのではない。オプションとして用意しているいくつかの『引き出し』から突然ひとつの『引き出し』を開けて、中身をひっぱりだすことなり。ジャズの天才たちが為し得たセンセーショナルな録音を心して聴けば、「本当の声」が聞こえてくる。
こんばんは。
>19世紀初頭のウィーンの聴衆が楽聖の「新しい」音楽に吃驚したように、20世紀のジャズ好きは進化するコルトレーンの音楽に良くも悪くも翻弄された。
コルトレーンの「アセンション」を楽しめるようになったのは、私も同じく、ごく最近のことです。
・・・・・・政治や経済はあれもこれもでは済まない。選択が重要だ。人の生き死ににかかわる。が、芸術はそうではない。枝分かれするほど豊かになる。それを阻む者は悪だ。芸術史家に要求されるのも哲学者の偏屈さではなくジャーナリストの臨機応変だ。・・・・・・
『20世紀を語る音楽 1・2』(アレックス・ロス著 みすず書房)についての、2010年12月19日付 読売新聞「本よみうり堂」での片山杜秀氏の書評の文章より、名言だと思いましたので・・・。
イリーナ・メジューエワにつきましては、まだ勉強不足です。本日のブログ本文の情報により、ますます聴きたくなってきました(笑)。
>雅之様
こんにちは。
>コルトレーンの「アセンション」を楽しめるようになったのは、私も同じく、ごく最近のことです。
やっぱりそうですか!初めて聴いた時は本当に苦痛でした。
ルー・リードの「メタル・マシーン・ミュージック」あたりもそうだと思いますが、
http://www.amazon.co.jp/dp/B000GG4ZTU
聴く側も「引き出し」が増えてくれば受容力が増しますよね。
メジューエワは日本贔屓のようですのでなるべく早めに実演に触れたいと僕も思っています。
※片山氏の言う「ジャーナリストの臨機応変」これは明言ですね!
[…] ※過去記事(2010年12月19日)※過去記事(2017年1月17日) […]