ハーゲン四重奏団のモーツァルト アダージョとフーガK.546(2000.11録音)ほかを聴いて思ふ

好奇心を持ち、研究熱心であることは大切なこと。

おそらく先達の「対位法」という術に大変な衝撃を受けたのだろう、モーツァルトにとって、俗に言うところの「バッハ・ヘンデル体験」は、後の重要な作品を創造する上でも大いなる示唆になったようだ。

ぼくは毎日曜日の12時に、スヴィーテン男爵のところへ行きますが、そこではヘンデルとバッハ以外のものは何も演奏されません。
ぼくは今、バッハのフーガの蒐集をしています—ゼバスティアンのだけではなくエマーヌエルやフリーデマン・バッハのも。それからヘンデルのも。そしてぼくのところには、この(一語欠落)だけが欠けています。そしてぼくは男爵には、エーバリーンのものも聴かせてあげたいのです。イギリスのバッハが亡くなったことは、ご存じでしょうね。音楽の世界にとって惜しむべきことです!
(1782年4月10日付、ザルツブルクの父レオポルト宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」(岩波文庫)P54

「遁走曲」とはよくぞ言ったものだ。
バッハの「平均律クラヴィーア曲集」第2巻から選りすぐったフーガの編曲。何て優しくも高貴な音調。モーツァルトのフーガが身に沁みる。

モーツァルト:
・弦楽四重奏曲第18番イ長調K.464(2000.8録音)
・弦楽四重奏曲第19番ハ長調K.465「不協和音」(2001.6録音)
・5つの4声のフーガK.405(J.S.バッハ平均律クラヴィーア曲集第2巻より)(2000.11録音)
—第2番ハ短調(BWV871)
—第7番変ホ長調(BWV876)
—第9番ホ長調(BWV878)
—第8番ニ短調(BWV877)(原曲:嬰ニ短調)
—第5番ニ長調(BWV874)
・アダージョとフーガK.546(2000.11録音)
ハーゲン四重奏団
ルーカス・ハーゲン(第1ヴァイオリン)
ライナー・シュミット(第2ヴァイオリン)
ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)
クレメンス・ハーゲン(チェロ)
ロベルト・ディ・ロンザ(コントラバス)

おそらく急場のお金を稼ぐための手段として生み出された(バッハを模範とした1783年のフーガK.426を弦楽四重奏用にアレンジした)フーガがあまりに美しい。

アンサンブルは緊密、というよりもはや一体。僕はハーゲン・クァルテットの「音」が好きだ。

目下私は、どうしてもお金を調達しなければならない事情にあります。しかし、あゝ、だれに頼ったらいいのでしょう?最上の友よ、あなたのほかには一人もありません!せめて、ご友情をもって別途にお金をお世話下されば、ありがたいのですが!もちろん喜んで利子をお払いいたします。
(1788年6月27日付、プフベルク宛)
~同上書P139

何という窮状!そんな中、同じ手紙の最後には次のようにあるのである。

ここに住んでいる十日のうちに、他の家にいる2ヶ月よりも多く仕事をしました。そして時折憂鬱な考え(これはむりやりやっと追い払う始末ですが)におそわれでもしなければ、事が一層よく運ぶでしょうが。
~同上書P140

わずか10日の間に生み出されたモーツァルトの作品たちの奇蹟!
ピアノ三重奏曲第5番ホ長調K.542交響曲第39番変ホ長調K.543、小さな行進曲ニ長調K.544(紛失)、ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545、そして、弦楽四重奏のためのアダージョとフーガK.546。言葉がない。

 

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