ファジル・サイの「展覧会」!

mussorgsky_pogorelich.jpg数年前「春の祭典」の独り多重録音で話題をさらったファジル・サイ。この音盤は何回か聴き、確かに「面白い」企画だと感心させられたものの、スタジオでの編集作業を繰り返しての作り物という弱点が拭えず(当然実際には演奏不可能なものだし)、決して後世に残り得る名盤とは思えなかった(結局、棚の奥に埃を被っている状態)。先日、雅之さんからお借りしたサイとパトリツィア・コパチンスカヤのスーパー・デュオによる「クロイツェル・ソナタ」ほかを聴いてみて、これまた個性的な面白い演奏だと感心させられたし、ことに雅之さんがオススメされていたラヴェルのソナタなどは本当にワクワクするような感動的な演奏だった。とはいえ、彼の生演奏を聴いたことがない僕は、ファジル・サイというピアニストの力量が実際にどの程度のものなのか量りかね、大手を振って「凄い」と称賛できるだけの自信も確信も一方では持てなかったというのも事実である。

おそらく当代随一の才能を秘める彼のことだから、いずれにせよ一度じっくりと実演を聴いてみたいと思っていたところ、とうとうリサイタルに触れる機会が訪れた。

19:00開演 すみだトリフォニーホール
J.S.バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ~無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004
J.S.バッハ(サイ編):幻想曲ト短調BWV542
J.S.バッハ:フランス組曲第6番ホ長調BWV817
ヤナーチェク:ソナタ「1905年10月1日」
休憩
スカルラッティ:ソナタヘ長調K.378、ニ短調K.1、ハ長調K.159
ラヴェル:ソナチネ
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調「戦争ソナタ」
~アンコール
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」~カタコンブ、バーバ・ヤーガ、キエフの大門
サイ:ブラック・アース
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番ニ短調「テンペスト」~第3楽章

勇猛果敢なプログラム構成。ファジル・サイとはクラシック・ピアニストではなく才能を持て余したエンターテイナーであり、(ある意味)ロック・スターであるということがよくわかった。バッハやスカルラッティがダンス・ミュージックであることが強調され、深い精神性という言葉からは程遠い演奏(と僕には感じられた)が繰り広げられる。雑ではあるが、表情豊かで個性的なピアノ捌き。そして、ヴィルトゥオーゾ的な要素が垣間見られるものの、それはあくまで似非。
ジャズ・ピアニストのように足を踏み鳴らし、グレン・グールドのように鼻歌を歌いながら、そして左手で指揮をしながらの演奏。
それでもさすがにヤナーチェクやラヴェル、プロコフィエフという20世紀の作曲家の作品を演奏する時は板についていたし、「戦争ソナタ」など先年聴いたアルゲリッチの実演には及ばないものの、結構衝撃性の強いものだった。十分楽しませていただいたので、これはこれで良しとしようと思った矢先、何とアンコールでいきなり「展覧会の絵」の後半部分が演奏された。吃驚仰天、脳天直撃、こんなに興奮、感動したパフォーマンスは珍しい。まるでEmerson, Lake & Palmerの「展覧会」を初めて聴いた時の「ぶっ飛び感」がまざまざと蘇ってきた。これは凄い!!もうこのアンコールを聴けただけで大満足。ファジル・サイ恐るべし(ただし、いわゆるオーソドックスなクラシック・ピアノを聴きたいという向きにはオススメできないことを明記しておく)。

ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」
イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ)

サイの実演の後ではポゴレリッチが大人しく聴こえる。しかし、音楽性、芸術性、「天才」は明らかにポゴレリッチが格上。来月はいよいよポゴレリッチの2年ぶりのリサイタル。楽しみだ・・・。

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