バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルのコープランド エル・サロン・メヒコほか(1989Live)を聴いて思ふ

胸を絞めつけられるほどの、美しくも哀愁溢れる音楽。
月並みな表現しか投じることができない自分の語彙力に愕然とする。
20世紀の音楽では、モーリス・ラヴェルの協奏曲の第2楽章に匹敵する、否、それ以上の逸品。

芸術性とポピュラリティの共存。
アーロン・コープランドの作品は、キース・エマーソンが好んで採用したように、アメリカ的鷹揚さだけでなく、ヨーロッパ的洗練をも兼ね備えているところが素晴らしく、それゆえに、美しく官能的であり、また知識欲求をも満たしてくれる器の大きさがあるように僕は思う。

大西洋をはさんでヨーロッパと向きあうアメリカ合衆国だが、そこではつぎに列挙するような点が大きな影響力をもってきた。まず第一に、音楽を享受する共同体や公衆や社会に対して作曲家の関心を引きつける、これまでにない新しいタイプの諸需要、また、大衆音楽、実利的音楽、学校の教育音楽、労働者のための音楽、大衆のための歌謡という形で、創造力豊かな芸術家を社会に再統合しようとする大胆不敵な企て、それに大量なマスを構成する受け手に向けての録音化や、ラジオ・劇場・映画に対する需要への対応、そしてクルト・ヴァイル(1900-1950)の驚くべき成功と、社会におけるコメンテーターとしての音楽に対する関心、ある種の実利主義的あるいは功利主義的な気風。国民的な、通俗的な、民俗的表現に対する復古的関心と結びついた民族音楽の探究。—これらはみなアメリカ合衆国において強い影響をもたらしてきた。皮肉めいたことを言えば、アメリカ合衆国が国際的な面で、同時代の音楽生活がかかえる重責の大部分を引き受けざるを得なくなった途端に、アメリカの作曲家たちは、何とかしてアメリカ的な音楽に主体性を見出そうと、アメリカ文化の内面へ、またその過去に目を逸らして行ったのである。
E・ソーズマン著/松前紀男・秋岡陽訳「音楽史シリーズ 20世紀の音楽」(東海大学出版会)P132-133

アメリカの苦悩、アメリカの歓喜、喧騒も狂乱も、祈りも静寂も、聖俗あわせもつコープランドの音楽は、彼の特殊な性癖からの賜物なのかどうなのか、あらゆるイディオムが駆使され、すべてのものを包含しようとする器の「強さ」を持つ。縦横無尽なのである。

ベニー・グッドマンの委嘱により生み出されたクラリネット協奏曲は、ベートーヴェンの作品111の裏返しだろうか、明暗、動静、二元の対比を、そこから生じる人間の喜怒哀楽を見事に表現しているように僕には思われる。おそらくここには、ナディア・ブーランジェから学び得たすべてが投影される。

もう既に、私は見逃してはならないとお知らせしたメトロポリタン歌劇場のポール・ホワイトマンによるジャズのコンサートを見ました。次はご一緒しましょう。その他の、あなたが観るべき催し全てのことを話してしまうのは止めておきます。すぐにお分かりになることでしょうから。
(1924年11月24日付、コープランドからナディア・ブーランジェ宛)
ジェローム・スピケ著/大西穣訳「ナディア・ブーランジェ」(彩流社)P81

この直前(11月4日)、敬愛するガブリエル・フォーレの国葬で弔辞を読んだのはナディアその人。右にも左にも、前にも後ろにも、はたまた上にも下にも、四方八方、八面六臂の動きを見せる彼女の魂が、コープランドにも受け継がれているのだろうと思う。

コープランド:
・エル・サロン・メヒコ(メキシコ・シティで人気のダンスホール)(1936)
・クラリネット協奏曲(1947-48)
・劇場のための音楽(小管弦楽のための5部の組曲)(1925)
・管弦楽のためのコノテーションズ(内包)(1961-62)
スタンリー・ドラッカー(クラリネット)
レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック(1989Live)

録音から30年。最晩年のバーンスタインの演奏には、執念と熱情と官能が入り混じる。果たして二人に性的関係があったのかどうかは知る術はないが、少なくとも録音を聴く限り、バーンスタインのコープランド(の作品)への愛情は並々ならぬものに思われる。

メキシコ民謡を引用して作られた「エル・サロン・メヒコ」は、それこそ、アメリカ合衆国が発信すべき通俗的でありながら民族的表現と、ナディアから吸収したであろう音楽的高尚さを併せ持つ傑作であり、それをバーンスタインが、いかにも喜びに溢れた筆致で描くのだから見事としか言いようがない。

衝撃的なニューヨーク・デビュー前の若きバーンスタインに、コープランドが贈った激励の言葉が素敵だ。

奇跡を期待してはいけません。しばらくは何も起こらなくてもふさぎ込まないでください。それがニューヨークです。
ジョナサン・コット著/山田治生訳「レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー」(アルファベータ)P12

二人は生涯の友となった。

バーンスタインが、ニューヨーク・フィルの本拠地移転を祝して委嘱した「コノテーションズ(内包)」は、表現主義的な色合い多少濃いが、感情と理知の交錯する演奏に作曲家の魂の叫びが手に取るようにわかって興味深い。

 

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