私のオペラ人生は、幻想ではなかった

romantic_callas.jpg(個人的には)落ち着いた三連休だった。普段から平日も休日もない身なので、連休だろうと何だろうとそもそも関係ないといえば関係ないのだが・・・。それにしても、目に見えない世間のムードの影響は受けているだろうから、秋らしい行楽日和の今日などは特に余裕があったように思う。
夕食後、何年か前に公開された映画「Callas Forever(邦題:永遠のマリア・カラス)」を観た。随分と脚色されているであろうほとんどフィクションのようなストーリーだったが、それなりに面白く観ることができた。
壮年期のカラスは、声質の素晴らしさもさることながら、どちらかというと舞台上の演技に他を圧倒する特長を見せたようで、この映画でも歌劇「カルメン」を映像化するための舞台裏や舞台そのものがメインになっており、歳を重ね衰えた声をカバーするために全盛期の頃の歌声を映像に重ね合わせて制作するという方法がとられ、映画製作が進行していく。
しかし、最終的にはこの「カルメン」は偽物だとし、フィルムそのものを破棄することを訴えかけるカラス。演技も歌声もどんなに完璧に見せられようとこれは「幻想」だというのだ。そして、彼女は続ける。

「私のオペラ人生は、幻想ではなかった。現実だったわ。」

たった1曲の短いアリアを歌うときですら、練習を重ね、周りの助言に真摯に耳を傾け成果を挙げていったというマリア・カラス。もちろん才能に恵まれていたのは確かだが、相応の努力をしていたことがつぶさに語られる。

「マリア・カラス・エバー!ロマンティック・カラス」
おお、愛らしい乙女よ~プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」第1幕より
この腕に来てください~ベルリーニ:歌劇「清教徒」第3幕より
僕は、君の髪や君のヴェールに戯れ流れる微風をねたんでいた~ベルリーニ」歌劇「夢遊病の女」第1幕より
あなたの声に心は開く~サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」第2幕より
ほか
マリア・カラス(ソプラノ)
ジュゼッペ・ディ・ステファノ(テノール)
ニコラ・モンティ(テノール)
アントニーノ・ヴォットー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団
トゥリオ・セラフィン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団
ジョルジュ・プレートル指揮フランス国立放送局管弦楽団

音楽を聴く上で、本当はこういうコンピレーション・アルバムは邪道だと思うのだが、この不世出のソプラノ歌手の歌声を一息に耳にするにはとても便利で、なるほど全盛期のマリア・カラスの歌というのは人間の感性を心底から刺激して、金縛りにでもあうような不思議な呪縛を感じさせてくれるようなある意味「恐ろしい声質」だな、などと考えながら感動して聴き通してしまった。
最新の技術によって創り上げられた虚像を「幻想」と言い、否定していたカラスのことを、その音盤をもって云々するのはナンセンスで、やはりその「現実」に触れることができなかったことが残念でならない。カラスの実演に限った話ではない。あと30年早く生まれていれば、僕の音楽体験も随分奥深いものになっていただろうに・・・。

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