ロドリーゴの「英雄的協奏曲」

rodrigo_batiz_osorio.jpg「アランフエス協奏曲」を聴くと、スペインのことなどほとんど知りもしない癖に「スペインらしさ」を感じるのってどういうことなんだろう?音楽というのはそれが生み出された時代、あるいは地域、または作曲家その人の個性を見事に反映しており、その土地を知らずともその雰囲気をまざまざと感じさせてくれる。古今東西あらゆる音楽を聴くにつれその幅広さと奥深さに畏怖の念を覚える。それこそ人の数だけ表現方法があり、それと同じ数だけ「音」「楽」があると言っても言い過ぎじゃない。

ロドリーゴは件のギター協奏曲の影響でギター弾きだと思われがちだが、実は本来の楽器はピアノ。彼のピアノ音楽は残念ながらあまり知られていない。格安で手に入るBrilliantレーベルの「協奏曲&管弦楽曲集」の内容をみると、ギター以外にフルートやヴァイオリン向けの協奏曲をしっかり書いているんだということがわかる。そんなことも知らなかったのかと言われればそれまでなのだが、その中から徐に1枚目を取り出してみて聴いたところ、これが意外に「はまる」。例えば、「英雄的協奏曲」という名のピアノ協奏曲。

民族色豊かな聴かせどころ満載の「まとも」なコンチェルト(失礼な言い方だが)。確かにスペイン風哀愁感漂う名品なのだが、第1楽章ののっけから不思議な「攻撃性」が耳につく。ラテン的な弾け具合とわかりやすいメロディが非常に心地良いのだが、時に無理やり聴かせようとする強引さが気になってしまう。それでも、僕は第3楽章ラルゴとフィナーレがことのほか気に入った。本当に遠く彼方にあるイスパニアの風と大地と木々を感じさせてくれるのだ。19世紀ロシア・ロマノフ王朝時代の絢爛豪華な貴族社会に、無敵艦隊を誇った大航海時代の強国スペインを重ね合わせるかのように、時にチャイコフスキーの音楽が木霊し、古き良き時代を懐かしむ。ロドリーゴの人生については勉強不足でまったく存じ上げないが、アランフエス協奏曲がスペイン内戦に対する「反戦、平和」の意味合いを込めて書かれたことを考えると、彼は根っからの平和主義者であったことが理解できる。平和を求めながらも何百年も前の「最強国」であった時代を思い返すかのような矛盾。潜在意識と介在意識の凸凹状態が面白い。

ロドリーゴ:協奏曲&管弦楽作品集~「英雄的協奏曲」
ホルヘ・フェデリコ・オソリオ(ピアノ)
エンリケ・バティス指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

人間は誰しもそれぞれがユニークな存在である。「自分らしく」あることがいかに重要か。セミナーではことあるごとにお話させていただいていることは前にも書いた。「自分らしさ」を追求するために人は他人と喧嘩を働いてきたのだろうが、戦う相手を間違えていないだろうか?
そう、本当に戦うべき相手は「自分自身」なのである(国レベルでも同じことがいえるように思う)。

あなたを皆と同じ人間にしてしまおうと、日夜励んでいる世の中で、自分以外の誰にもなるまいとするのは、人間のでき得る闘争の中で最も厳しい闘いだ。そしてその闘いをやめてはならない。
E.E.カミングス


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
>「自分らしさ」を追求するために人は他人と喧嘩を働いてきたのだろうが、戦う相手を間違えていないだろうか?
>そう、本当に戦うべき相手は「自分自身」なのである(国レベルでも同じことがいえるように思う)。
それは、厳密に言えば資本主義も社会主義も否定することになりますよね。人には誰しも守るべきものがあり、正義がひとつではない限り、好むと好まざるとに拘らず、他者と(私の場合、他社とも)戦わなければならない局面が生じます。仮に世界が食糧や資源の争奪戦になったら、誰でも家族を守ろうとしますよね・・・。
最近岡本さんのせいで、よく自己分析してみるんですけどね(爆)、私達の世代は、幼少期から観た「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」の世界観や思想の影響が極めて大きいんですわ(笑)。 金城哲夫の脚本の回など、特にそう・・・。「ガンダム」や「エヴァ」世代も同じかもしれませんが、こういう作品の内容を追究すればするほど、いよいよ単純なものの見方は出来なくなります。
21世紀は多極化と多様な価値観の時代です。正義は人の数と同じだけあります。でも、「エゴ」は「エコ」と逆行していますし・・・、まあそういうことを仕事前に考えるのは、とても有意義です。
ロドリーゴはナクソスから管弦楽作品集のCDが何枚も出ていますよね。しかし私は勉強不足で1枚も聴いたことがありません。このブログをきっかけに勉強します。
それと岡本さん、私が語りたいのは暴君指揮者、エンリケ・バティスについてなんです!!!えっ!何?また長くなるのでもう止めろですって?はい、わかりました。
最後のE.E.カミングスの言葉、現代のすべてのクラシック音楽の演奏家に聴かせてあげたいですね。メジャー・オーケストラの奏者にも、ピリオド奏法の演奏家にもです(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。確かにおっしゃるとおりこの世界は矛盾だらけですね。もちろん我々は人間であり、神仏じゃないので基本は「エゴ」の塊だと思います。でも、雅之さんがお感じになって書かれたコメントをみてまた僕がコメントをする、というその行為、やりとりが大切なんだなと僕は思うんです。まさに自己分析です。
>正義は人の数と同じだけあります。でも、「エゴ」は「エコ」と逆行していますし・・・、まあそういうことを仕事前に考えるのは、とても有意義です。
それです!それが重要だと思うんです!
>私が語りたいのは暴君指揮者、エンリケ・バティスについてなんです!!!
いや、これはぜひ語ってください!!長かろうが短かろうが、こうやって毎々雅之さんにコメントをいただくことで「思考」が深化し、知識が広がっているのは事実なので、ぜひ再コメントをお願いします!!(時間のあるときで結構ですので・・・笑)
>メジャー・オーケストラの奏者にも、ピリオド奏法の演奏家にもです(笑)。
同感です。

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