悲劇の巨匠ヴェデルニコフ

vedernikov_klavierabend.jpg人が喜んでくれる姿を見るのはとても気持ちがいいもの。人はやっぱり他人のために生まれてきているんだろうと実感する。だから、今自分が直面している境遇を不幸と思わなくてもいいし、すべての状況を楽しめばいいのだと思う。

来週の「早わかりクラシック音楽講座」に向け、頭をひねり始めた。これまでの趣向をガラッと変え、歴史の縦軸で切ることを思いついた。1830年、フランス7月革命の頃の各国の状況を背景に、その当時活躍したショパンやシューマン、あるいはベルリオーズ、メンデルスゾーンといった作曲家がどういう想いで楽曲を創作したのかを僕なりの観点で攻めてみようと思っている。それにしても、資料があまりにも膨大・・・。なかなか一筋縄ではいかなく、途方に暮れてしまう。

マニアが血眼になって探している希少CD、「悲劇の巨匠ヴェデルニコフ~20世紀ロシアのピアノ音楽」。発売当初、宇野功芳氏が絶賛している記事を見て購入。1度か2度ほど聴いてそのまま棚の奥にしまってあった代物。

スクリャービン:ピアノ・ソナタ第10番(1913)
ショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第1番(1926)
ウストヴォルスカヤ:ピアノ・ソナタ第2番(1949)
リゲティ:エチュード第1集(1985)より
シューマン:アラベスクハ長調
シューベルト:即興曲変ト長調D.899-3
グラツィオーリ:アダージョト短調

とにかく吃驚。こんな途轍もない名盤を奥底にしまっておいたとは・・・。何がすごいかってまずは選曲の妙味。20世紀ロシアのマニアックな名曲をいとも容易く弾いた後に、突然現れるロベルト・シューマンとフランツ・シューベルトの優しい調べ。突如雲間に陽光が差すかの如くの展開!最後は古典派のグラツィオーリ(初めて聴く作曲家)で閉める憎いまでの演出。アナトリー・ヴェデルニコフは来日予定の2ヶ月前に急逝しているとのことだが、ともかく実演を聴いてみたかった。

この音盤の白眉はショスタコーヴィチとシューベルト!わずか20歳のショスタコが書いた第1ソナタはモダニズムの影響をもろに受けた、信じられないような傑作。それをものの見事に再現するヴェデルニコフの腕と魂は桁外れ。そして、シューベルトの即興曲で見せる遅いテンポから紡ぎ出される涙ながらの旋律美。言うことなし!

自己のテクニックに溺れず、人を楽しませるために演奏できるピアニストは超一流だ。たとえ商業的に芳しくなかったとしても・・・。

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