「女は男の全てを知りたくて、男を問い詰める。男は黙って自分を信じ、ついてきて欲しいと女に望む。だから女と男は永遠に分かり合えない-。そんなワーグナー自身の諦念を感じずにはいられない」(飯森泰次郎)
歌劇「ローエングリン」について指揮者の飯森氏が語った言葉はまさに言い当てており、人間心理そのものといえるかもしれない。ワーグナーは天才という借りの衣装を身にまとった極めて人間らしい人間だったことがよくわかる。
昨日、朝日新聞の土曜版を何気なく見ていたら「永遠の愛のユートピア」というタイトルでリヒャルト・ワーグナーの「結婚行進曲」がとりあげられていた。メンデルスゾーンの同名曲と人気を二分する結婚式の定番曲である。その音楽がクラシックの、しかもワーグナーのオペラ中の楽曲であることを知らない人は多いことだろう。第3幕の冒頭、華麗で勢いのある例の前奏曲に引き続き演奏されるこの音楽は男性的な音楽を書くことの多いイメージをもつワーグナーの「女性的な面」を表現したようなとても優雅で心に染み入る「幸福」の音楽である。今日のような全国的に激しい雨の日に、独り静かに佇みながら聴くのにとても適した楽曲だ(そもそも「ローエングリン」というオペラ自体、かの狂王ルートヴィヒ2世やアドルフ・ヒトラーがはまったほどの音楽で、『鶴の恩返し』さながらのストーリーや静謐で美しい音楽など「ワーグナーの毒」てんこ盛りで、どの場面を聴いてみてもその美しさに声が出ないほどだ)。
今や4時間近くにも及ぶワーグナーのオペラを全曲通して聴く時間も気力もない。
ちょうどCD1枚(70分強)に収まる第3幕を立て続けに2度聴いた(というより聴き流した)。例の勢いあるかの前奏曲に始まり、ローエングリンとエルザの婚礼に始まるこのオペラの最終幕。
いよいよ結婚の誓いをたてるブラバント皇女エルザと白鳥の騎士ローエングリン。しかし、程なく二人は激しい口論を始め、あっけなく別れてしまう(決して素性を問うてはならないという掟を破ったエルザのもとを去るのだ!)。登場人物の全てが最終的には不幸になるという結末を持つ何とも悲しいオペラ。
この音盤は、帝王カラヤンが70年代にキャストとの仲違いによる中断をはさみ6年の歳月をかけて録音した屈指の名盤。とにかく美しい・・・。完璧である。やはりカラヤンは「オペラの人」だ。
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[…] 本格的に風邪をひいた模様。 咳が出て、声もおかしくなり、何より食事の味がいまひとつわからない。いやはや、明日もまる一日忙しいというのに・・・、困った。 講座の準備の続きでワーグナーの映像をいろいろと漁った。「ローエングリーン」の第3幕あたりが入門者には無難かなとも思ったが、昔購入したアバド&ウィーン国立歌劇場による演奏のLDしか手元にない。然らばやっぱりこの際「指環」から攻めてみるかと考えたが、神話の世界であらすじや登場人物の説明をするだけで疲れそうなので(聴講する方は頭がおかしくなりそうなので・・・笑)、「トリスタン」にすることにした。 […]
[…] セザンヌも打ちのめされたとみる。今日のところは第3幕を聴いた後第1幕を。カラヤンの洗練された静的な演奏に対して僕はクーベリックの演奏に泥臭くて動的な印象を持つ。真のワーグ […]
[…] ワーグナーの音楽は理性を失わせる。 かつてパトロンであったバイエルン王ルートヴィヒも「ローエングリン」に打ちのめされ、王に即位するやワーグナーを援護し、財政的にも大変な額を投じ、周囲からは狂王とまでいわれた。第三帝国総統ヒトラーも同じく若い頃「ローエングリン」に卒倒するほど感動し、以来ワーグナー音楽を別格のものと信奉し、自身が政権を掌握した後はその音楽をプロパガンダに上手く利用した。現在は確かその禁は解かれたように記憶するが、つい最近までユダヤ国家であるイスラエルではワーグナー音楽の演奏そのものがタブーとなっていたのは有名な話。 歴史のいろいろはこの際横に置いておくとして、そしてワーグナーの奇天烈で超エゴイスティックな人間性云々は一旦無視することにして、純粋に客観的にその音楽に耳を傾けてみると、やっぱりものすごい感動が湧き起こる。 […]