朝比奈隆指揮大阪フィル ブルックナー第5番(1998.7.16Live)を聴いて思ふ

期せずして遭遇した幾度かの天覧コンサートの中で最も印象的なものは、朝比奈隆指揮による東京都響定期と大阪フィル東京定期の2つ。陛下は余程この曲がお好きなようで、両日ともプログラムはブルックナーの交響曲第5番変ロ長調だった。
朝比奈御大の指揮はどちらの日も類稀なる緊張感に溢れ、ブルックナーの奧妙なる世界を繰り広げる壮絶な音の大伽藍が再現された。

東京都交響楽団Aシリーズ第436回定期演奏会
1996年10月7日(月)19時開演
東京文化会館
・ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調(ハース版)
朝比奈隆指揮東京都交響楽団

ちなみに、公演の数日前に都響事務局から届いた1通の手紙には次のようにあった。

さて、上記演奏会には、天皇、皇后両陛下がご来場されることが予定されております。そのため、関係署庁の要請により、すでに販売済の客席の何席かを関係者用に準備することとなりました。
つきましては、お求めいただきました2階センターのお席からのご移動をお願い申し上げたく、本状を出させていただきました。

内心僕はとても感激した。そして、その夜の、朝比奈のいつにない襟を正されるような厳粛な演奏を聴いてますます彼のブルックナー第5番の虜になったのである。その後、2年と空けず、朝比奈隆のコンサートに両陛下が再びご臨席されたことに僕はまた感動した。

大阪フィルハーモニー交響楽団第37回東京定期演奏会
1998年7月26日(日)14:30開演
サントリーホール
・ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調(ハース版)
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団

その日、ステージに登場するや背筋をピンと張り、両陛下の御席に向かって最敬礼をした後、徐に棒を取り、オーケストラを指揮する朝比奈御大の気迫は明らかに違っていた。一切の恣意性のない大宇宙の鳴動。これ以上のブルックナーは(少なくとも僕の経験の中で)後にも先にもたぶんない。

残念ながら両日の公演とも録音は残されていない。しかし、幸いにも大阪フィル東京定期の10日前の、大阪フェスティバルホールで同曲を披露した「朝比奈隆90歳記念コンサート」の録音(毎日放送自主製作盤)が僕の手元にはある。

・ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調(ハース版)
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団(1998.7.16Live)

悠久の調べ。第1楽章序奏アダージョから堂々たる主部アレグロ。第2楽章アダージョの微動だにしない朝比奈らしい愚直ながら意味深い音像。そして、いかにも朝比奈流野人の舞踊第3楽章スケルツォを経て、驚異の終楽章序奏アダージョから主部アレグロ・モデラート!!

〈5番〉の方が、もっとバロック的ですからね。よけい、そうしたテンポの問題が指揮者に課されるわけだ。特に、フィナーレに入ってからのテンポには、もの凄く問題が多いです。あれも・・・そのまんま、やるしかないんでしょうなあ・・・。
金子建志編/解説「朝比奈隆—交響楽の世界」(早稲田出版)P277

楽譜を隅から隅まで精査する朝比奈の真骨頂。「そのまんま」なのである。

やはり問題はフィナーレでしょう。フィナーレの巨大なフーガが始まるまでに、あんまり(指揮者が)迷うと、ウロウロしてわけが解んなくなるから、迷わずにずうっとやっていかないと。そこをずっと安定の良い演奏にしたいと思ってるんですけれどね。
~同上書P278

あの、人後に落ちない壮大な終楽章の秘密はそこにある。
終演直後の、いつも以上の怒涛の拍手喝采。
朝比奈隆のブルックナーが僕には忘れられない。

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