君がため

haydn_77_abq.jpg-おいしい料理を作るコツは何ですか。
旬のものを安く手に入れ、美しく刻み、手早く調理して、心を込めて盛りつける。何より重要なのは「君がため」です。大切な、大切な人に食べていただくという気持ちで作る。そこに込めた愛情が一つでも欠けたら、ゼロになってしまう。

今日の朝日新聞夕刊を読んでいて「『君がため』に精進料理」という記事が目に留まった。語り手は滋賀県大津市にある月心寺住職の村瀬明道尼さん(その精進料理はちょっと前巷を騒がした「吉兆」の創業者・湯木貞一さんが高く評価したことで有名らしい)。住職は39歳の時大きな交通事故に遭い、右半身不随とのこと。かろうじて命をとりとめたという経験から「九死に一生を得て思うのは、来年の今日、自分がこの世にいるかなんて誰にもわからないということ。だから、自分を欺かず、いまを精いっぱい生きなければならないと思うようになりました。」と語る。
世の中に失敗や不幸ということはない。どんなことも最後は成長の糧になるのだからともかく一生懸命に、そして継続して、だ。

ハイドン:弦楽四重奏曲第81番&第82番作品77
アルバン・ベルク四重奏団

いわゆる「ロプコヴィッツ四重奏曲」と呼ばれるハイドン晩年の名作。同じ頃、若きベートーヴェンもロプコヴィッツ伯爵に委嘱され弦楽四重奏曲集を作曲、献呈している(それが昨日採り上げた作品18の6曲)。ベートーヴェンの作品が30歳前のものであるのに対し、ハイドンのものは作曲者67歳時の円熟の作品。
時折「翳り」をみせるモーツァルトの作品と異なり(それがまたアマデウスの特長であり、モーツァルトがモーツァルトである所以)、ハイドンの創作する音楽はいつも明るくどこまでも元気だ。交響曲にして104曲、弦楽四重奏曲にして83曲、そしてピアノ・ソナタは60曲以上残したヨーゼフ・ハイドンのクリエイティビティは人間離れした天才性を秘める。
それに、しかめっ面のどこかしら陰気で「闘争」を題材にするベートーヴェンよりは極めて「平和」で、何度繰り返し聴いても耳の邪魔にならないところが素晴らしいところである。ハイドンの人生は一貫している。まさに『君がため』に「いまを精いっぱい生き」傑作を創り続けた。それが「交響曲の父」あるいは「弦楽四重奏曲の父」といわれる理由でもある。

それにしてもアルバン・ベルク四重奏団の演奏するハイドン作品は抜群の出来だ。緊密なアンサンブル、冷徹そうに見えて意外に温かく、そしてあまりに明るく朗々とした表現の妙味。本当に飽きない。

※カップリングはルチアーノ・ベリオがABQに献呈した「ノットゥルノ」と題する弦楽四重奏曲第3番「夜に黙して語られなかったことばを・・・」。こういう現代音楽はやはりABQの独壇場。凄演!

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