三十にして立つ

beethoven_SQGuarneri.jpg人は30歳を迎える頃にふと立ち止まり、「人生」について考えることが多くなるようだ。
その頃のことを思い返すと、そういえば僕自身もそうだった。

仕事を義務と捉え、夢(世の中に向けてやりたいこと)をゲームのように楽しむものと考えるのは一般的だと思うが、夢-すなわち「ライフワーク」を義務(must)とし、仕事をゲーム(のように楽しむもの)だと考えるようになったら、諸々のことが随分楽に考えられるようになり、自分が何をしなければいけないのかがよく見えてきたという話を聞いた。生活資金を稼いでいく手段として割り切りながらも、ある程度キャリアを積んでいけば、相応の成果を挙げていくことは、一定の能力をもったビジネスマンなら難しいことではない。ビジネスを客観的に捉え一種のゲームとして進めていけば、確かに日常のストレスから随分解放されるだろう。
一方で、「夢=ライフワーク」-例えば、それが「人を助ける、救う」といった漠然とした大きい目標、目的であってもいい-に関しては「やらなければならないこと」と自らに強制的に科し、鼓舞することは容易いことに見えて決して簡単なことではない。「やらねばならぬ」と決意・決心し、背水の陣を敷かないことには物事は始まらない。

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番~第6番作品18
グァルネリ四重奏団

楽聖ベートーヴェンが28歳~30歳の頃に書き溜め、当時のパトロンであったロプコヴィッツ伯爵に献呈した6つの弦楽四重奏曲。若き日のベートーヴェンが創作した音楽は、そのいずれもが先輩であるハイドンやモーツァルトの影響下にある。しかしながら、6曲の中で最も後に作曲されたのではないかと推測される第4番ハ短調は、ベートーヴェンにとって特別な意味を持つ調性で書かれた最初の四重奏曲であり、楽聖らしい後年の「深み」を彷彿とするシーンがここかしこに散りばめられた傑作である。
ベートーヴェンは30歳を目前にして、自らの役目を悟り、ライフワークとしての弦楽四重奏曲の創作を思い立ったのではないか・・・。晩年には人間の心の深層に沈潜していく巨大な音楽を生み出していく彼の「決意」の初志が、作品18の中に聴いてとれると思うのはひょっとすると僕の錯覚なのか・・・。

グァルネリ四重奏団の演奏も秀逸。ただし、アルバン・ベルク四重奏団やスメタナ四重奏団の持つ鋭さや深みには残念ながら一歩及ばない。とはいえ、全16曲の全集、合計8枚のCDボックス・セットが3,000円ほどで購入できることはありがたい。

⇒旧ブログへ


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む