ミュージック・コンクレート

messe_pour_le_temps_present_pierre_henry.jpgモーリス・ベジャール・バレエ団がまだ二十世紀バレエ団と名乗っていた頃、ジョルジュ・ドンの「ボレロ」に魅せられ、来日のたびにわずかな数であるもののその舞台に触れることができた経験はとても貴重な思い出である。ベジャールの創造するモダン・バレエの世界が衝撃的で、一時期ビデオやLDを収集し、映画館でロードショーが行われると聞きつけては通っていたあの頃が懐かしい。

若きモーリス・ベジャール自らが踊る「現代のためのミサ」という作品がある。モノクロの古い映像だが、BGMとして使用されている音楽が不思議に心に残った。また、「若いダンサーへの手紙」というレーザーディスクに収録されているジョルジュ・ドンによる「旅」にも驚かされた。これがバレエなのか?!まさに前衛的な音楽をバックにドンが憑依されたかのようにパフォーマンスする様は刺激的だった。

いずれの音楽もフランスの生んだ前衛作曲家ピエール・アンリの作品である。パリ音楽院においてオリヴィエ・メシアン、フェリックス・パスロンヌ、ナディア・ブーランジェに師事した彼は、オーケストラの団員としてキャリアを積んだ後、テープレコーダー誕生以前の1949年にピエール・シェフェールと協力して「ミュージック・コンクレート」の第一歩を築いたのだという。

現代のためのミサ~ピエール・アンリ・コレクション

1960年代の「耳」にしてみると大いに「違和感」を感じさせたのかもしれない。音楽のようでもあり、ただの雑音のようでもあり。ただし、The Beatlesが”Revolution 9″で試みた実験よりはよほど聴きやすく、説得力があると僕は思う(いや、単に僕が歳をとって受けつけるだけの耳ができあがったのかもしれないが)。

時折場所を変えると仕事が捗る。午前中、ノートPCを持ち出して、巣鴨駅前のファミレスで1時間ほど来週に予定している大学の授業の進行構想を練る。大学の就職課からは短い1コマの授業の中であれやこれやと詰め込んでほしいという要望が入る。例えば、50人という学生に対して3回の模擬面接を体験させてあげてほしいと来る。しかしながら、それは物理的に無理だ。2回でもハードルは高い。僕は、この時期は「体感」よりも「反省と自覚」が重要だと考える。よって1回の体験に対してフィードバックに重点を置いて講座を進めた方がより成果に結びつきやすいのではないかと考えるのだ。

1月15日時点での大学就職内定率は過去最低の73.1%なのだと。10人に3人は内定がとれていないということになる。僕が受け持っている大学は偏差値的にもそれほど高い大学ではないから、より一層苦戦しているようで、下手をすると内定率50%前後なのではないだろうか。ゆえに、職員が焦るのもよくわかる。講師としては最善を尽くしてともかく学生さんに成果を得させてあげたいと心底思うが、やっぱりマスプロ的な授業ではいかんせん限界がある。

「人間力向上」に重点を置いた就職対策研修が重要だから個人向けに提供したいという想いがますます募る。かつて大学生を対象に「就職セミナー」をやってきた経験がその時代以上に生きるのではないのか。少なくとも意識を持った若者、そして彼らがまだ素直なうちに(横柄な言い方だが)「人として大切なこと」を教えてあげたい、そんなことをふと考えていた。

4 COMMENTS

雅之

こんばんは。
う~ん、さすがにご紹介の音楽や映像はよく知りませんので語れません。
これを機に勉強します。ありがとうございます。
でもこういう話題って、音楽のジャンル分けによる差別は無意味で、民族音楽も、クラシックも、ダンス・ミュージックも、現代音楽も、地続きなんだということを実感できますね。
岡本さんの、今世紀のバレエの話題に乗じて・・・。
「シャネル&ストラヴィンスキー」という映画が、日本各地で順次公開になっていますよね。
http://www.chanel-movie.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB&%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC
ディアギレフやニジンスキー、指揮者のモントゥー等の登場人物のエピソード、「春の祭典」のシーンなど、興味津津で、とても気になっています。忙しいので、当分は観る時間なさそうですが・・・。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
>音楽のジャンル分けによる差別は無意味で、民族音楽も、クラシックも、ダンス・ミュージックも、現代音楽も、地続きなんだということを実感できますね。
おっしゃるとおりですね。少なくとも「音」を扱っているという意味ではまったく同質ですよね。
「シャネル&ストラヴィンスキー」
やってますね、今。僕はちょっと前のクララ・シューマンの映画も見逃しておりまして・・・。
何年か前のラフマニノフは最低でしたし・・・。
確かに興味津津ではあるのですが・・・。
もし僕より早い機会に観られる機会ありましたらご感想をお聞かせください。

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岡本浩和の音楽日記「アレグロ・コン・ブリオ」

[…] ピエール・アンリが死んだ。享年89。 かつて、彼の音楽にモーリス・ベジャールが振付をしたモダン・バレエに、僕はとても衝撃を受けた。それゆえに、僕にとってピエール・アンリの音楽はベジャール・バレエと結びついてしまっている。 彼の、実験精神あふれる「ミュージック・コンクレート」と呼ばれるジャンルの作品は、今でこそ違和感や拒絶感は少ないかもしれぬ。しかし、50年以上も前に、まだテープ録音が普及していないあの時代に、恐るべき革新的な方法で「音楽」を創造したその進取の志と勇気を僕たちは忘れてはいけない。そしてまた、彼の作品がモーリス・ベジャールとの共同作業から生み出されたものであったことも忘れてはならない。 久しぶりに聴いた「現代のためのミサ」に舌を巻いた。実に素晴らしい。 […]

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