ブラッド・メルドー in Japan 2019 ピアノ・ソロ コンサート

思わずため息が出た。アンコール4曲を含め全10曲。
トリオのブラッド・メルドーは、ほんの少しだけれど余裕があった。
もちろん今日のブラッド・メルドーにも余裕はあっただろう。ただし、すべてを一身に背負い込む緊張感が彼をそうさせたのか、一切のMCなし(傍らには念のためか、マイクが据え置かれていたけれど)。言葉にならない壮絶なパフォーマンスが90余分にわたって繰り広げられた。

僕は一切の先入観を持たずに今日のステージに触れた。
メルドーの奏でる音楽は、主題の提示から大袈裟な、それでいて理に適った展開を肝として、見事な小宇宙を創出した。予想もつかない流れが、手に汗握る白熱を喚起し、また超絶技能によって唖然とするほどのパワーとエネルギー、そして静かな祈りを生んだ。見事としか言いようがない。その上、プログラムの構成が、起承転結に富み、1曲の展開形と絶妙なフラクタルを形成するものだから堪らない。
第1曲の、独墺的堅牢な形式に則った、古典的な響きにまず酔った。第2曲の、まるでショパンを髣髴とさせる旋律美、さらに、第3曲はスクリャービンの神秘性を取り込んだ世紀末的退廃を表現する色調がとても美しかった。なるほど、第4曲はまるでサティかプーランクかという新しい響き。参った。

ブラッド・メルドー in Japan 2019
ピアノ・ソロ コンサート
2019年6月3日(月)19時開演
よみうり大手町ホール
ブラッド・メルドー(ピアノ)

ただひたすら、そして無心に音楽が奏でられる様。すなわち崇高。
第5曲は”Blackbird”。ビートルズの名曲が、これほど多様に変奏され、それでいて元の主題は崩されることなく可憐に、否、より芸術的に繰り出されるその意志に、僕はとても感動した(ルバートというのか、あるいはシンコペイテッドな方法というのか、とにかくどの瞬間もいちいちお洒落)。さらに第6曲は”And I Love Her”での、マイナー調の響きの斬新さに脱帽。クライマックスに向けて音楽がうねり、咆哮し、そうして徐々にまた静まり返っていく展開は今夜の白眉だろうと僕は思う(ほとんど即興のように感じたが、たぶんそうではないのだろう)。

メルドーの手にかかったら、音楽はジャンルの境界を超え、すべてがイマジナティブ。”Mother Nature’s Son”には泣けた。

会場は文字通り満員。
500余の席がすべて埋まり、最後はスタンディング・オヴェイション。
素晴らしかった。

※追記
Set List ※Facebookページより引用
・Untitled (B. Mehldau)
・Untitled (B. Mehldau)
・Untitled (B. Mehldau)
・Waltz for J.B. (B. Mehldau)
・Blackbird (J. Lennon/P. McCartney)
・And I Love Her (J. Lennon/P. McCartney)
Encore
・I Fall in Love Too Easily (J. Kern)
・Get Happy (H. Arlin)
・Linus and Lucy (V. Guaraldi)
・Mother Nature’s Son (J. Lennon/P. McCartney)

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3 COMMENTS

Brad Mehldau "Finding Gabriel" (2019)を聴いて思ふ | アレグロ・コン・ブリオ

[…] 先月、ブラッド・メルドーの来日公演を聴いた。 トリオ・コンサートもソロ・コンサートも、それはそれは変幻自在の才能の顕現であり、インタープレイは静謐でありながら激しく、ソロは旋律の宝庫であり、同時に即興の魔法、どの瞬間も筆舌に尽くし難く、痺れるものだった。 […]

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