Brad Mehldau “Finding Gabriel” (2019)を聴いて思ふ

湿潤な高原で、初夏の冷気漂う真夜中に、高雅で聖なる調べが弾ける様。
それでいながら音楽は端からポピュラリティを獲得する。
耳にも心にも優しい音たちは、あらゆるジャンルを超え、キリスト教をモチーフに世界を感化する。

誰もが平和を求めているのだと思う。
ましてや音楽は平和のためにあるのだとも思う。
どこかで聴いたことのあるような旋律がそこかしこに現れる。
メルドーの奏でる楽器は実に透明な音を出す。ベッカ・スティーブンスの声も、またガブリエル・ハカネの声も何て温かいのだろう。

あなたが願いの祈りを始めたとき、一つのみことばが述べられたので、わたしはそれを伝えに来ました。あなたは、神に大いに愛せられている者です。ゆえに、そのみことばを聞き分け、幻を悟りなさい。
(ダニエル書9章23節)

先月、ブラッド・メルドーの来日公演を聴いた。
トリオ・コンサートソロ・コンサートも、それはそれは変幻自在の才能の顕現であり、インタープレイは静謐でありながら激しく、ソロは旋律の宝庫であり、同時に即興の魔法、どの瞬間も筆舌に尽くし難く、痺れるものだった。

ブラッド・メルドーのすごさはいわゆる「ジャズ・ピアニスト」としてだけでなく、ジャズ以外のジャンルとも交流しながら、ジャンルを交差、融合しながら作編曲、コンセプトなど、様々な面で刺激的な音楽を作り続けていることだ。
(柳樂光隆)

柳樂さんのこの言葉にメルドーのすべてがあるように思う。
特に、来日直前にリリースされた最新アルバム”Finding Gabriel”は、旧約聖書の中の一節からとられた言葉によって成立するもので、音楽は祈りに満ちた、崇高な様相を示す、ジャズというにはほど遠い作品。

・Brad Mehldau:Finding Gabriel (2019)

Personnel
Becca Stevens (voice)
Gabriel Kahane (voice)
Kurt Elling (voice)
Ambrose Akinmusire (trumpet, solo)
Michael Thomas (flute, alto sax)
Charles Pillow (soprano sax, alto sax, bass clarinet)
Joel Frahm (tenor sax)
Chris Cheek (tenor sax, baritone sax)
Brad Mehldau (OB-6 Polyphonic synthesizer, Therevox, Moog Little Phatty synthesizer, Steinway C grand piano, Yamaha upright piano, Fender Rhodes, Musser Ampli-Celeste, Morfbeats gamelan strips, Therevox, xylophone, Yamaha CS-60 Synth, Mellotron, Hammond B-3 organ, shaker, handclaps, drums, voices)
Mark Guiliana (drums, electric drums)
Sara Caswell (violin)
Lois Martin (viola)
Noah Hoffeld (cello)
Aaron Nevezie (Korg Kaoss Pad)

メルドーのマルチな才能が縦横に開花するマスターピース。
第1曲”The Garden”から思わず惹きつけられる音。すべてがメルドー一人によって録音された第2曲”Born to Trouble”のかっこよさ。白眉は第7曲”Make It All Go Away”以降。メルドーの天才的創造性を堪能するにはとっておきの一つだろう。心底素晴らしい。久々の大傑作。嗚呼。

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