ヌヴー ドブロウェン指揮フィルハーモニア管 ブラームス協奏曲(1946.8録音)ほかを聴いて思ふ

静かにひびく 天上の
おだやかに渡る音に満ち
風吹き通う 神さびた
至福の住いなる広間。緑の敷物をめぐって香る
喜びの雲。はるかに輝くのは
熟れた果実 黄金花咲く酒盃に溢れ
整然と華やかに連なり
ここかしこ 平らかな床から
傍に高まる宴の卓。
遠くから この夕べの時
心に愛ある客人が
訪れてくることに きまっていたのだ。

「平和の祭」
川村二郎訳「ヘルダーリン詩集」(岩波文庫)P162-163

風向きが変わる。物事の考え方を切り替えよと。
直線的な、力のある音色と響き。そして、ほとばしる情熱。
初めて聴いたとき、僕は男性ヴァイオリニストによる演奏なのだろうと思った。

この曲は、ブラームスらしく、より内にこもる、愁いを帯びた解釈が僕にとっては理想なのだが、壮年期のブラームスの、確信のある筆致と高揚する楽想を完璧に音化した彼女の力量に大いなる賛辞を送りたい。不慮の飛行機事故にてわずか30歳という人生であったにもかかわらず、彼女にとってよほどブラームスは性に合ったのか、ライヴを含むと4種もの録音が残されており、いずれもが名演奏なのである。

ジネット・ヌヴー。
1919年8月11日、フランスはパリにて生誕。そして、1949年10月28日、大西洋アゾレス諸島に散る。

ブラームスは、総合的にみると他の録音に軍配が上がるが、比較するのでなければ、ことに第2楽章アダージョの抒情が素晴らしい。愛らしくも粘る囁き。

・ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77(1946.8.16-18録音)
ジネット・ヌヴー(ヴァイオリン)
イッサイ・ドブロウェン指揮フィルハーモニア管弦楽団
・シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47(1945.11.21録音)
ジネット・ヌヴー(ヴァイオリン)
ワルター・ジュスキント指揮フィルハーモニア管弦楽団
・ラヴェル:ハバネラ形式の小品(1946.8.12-14録音)
・スカラテスク:バガテル(1946.8.12-14録音)
ジネット・ヌヴー(ヴァイオリン)
ジャン・ヌヴー(ピアノ)

前年に録音されたシベリウスの、北国を連想する仄暗い詩情がまた素晴らしい。
それにしても、驚きはオーパス蔵の復刻だ。第2楽章アダージョ・ディ・モルトにおける通奏低音の如く芯にまで沁みる重低音。(録音の問題だと思う)音の揺れは甚だしいが、終楽章アレグロ,マ・ノン・タントの、悠揚たる旋律の流れと独奏ヴァイオリンの神々しいまでの歌。

さらには、兄のジャンの伴奏による2つの小品がまた格別に美しい。
ラヴェルのハバネラ形式の小品の、水も滴る妖艶な音と、類い稀なる音楽への貢献。スカラテスクのバガテルでの脇目も触れずに音楽に集中する様と念。

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3 COMMENTS

庵ナカタ ヒロコ

岡本 浩和 様

おじゃまします。イッセルシュテット=北ドイツ放送交響楽団版、デゾミエール=フランス国立ラジオテレビオーケストラ版、このドブロウェン版で、ブラームス協奏曲を聴いてみました。どれも素晴らしいけど、このドブロウェン版に初々しさとか若々しさが垣間見えるように思いました。他のより2年早い録音だからでしょうか? この記事で紹介されていなかったら、このCDはずっとしまっていたままだったかもしれません。ありがとうございました。
 ところで、ジョコンダ・デ・ヴィート、というヴァイオリニストがフルトヴェングラーと1952年にブラームスの協奏曲を録音したものがありますが、聴かれたことありますか?こちらも素晴らしいと思います。ヌヴーが28才に対してデヴィートは45才という録音時の年齢なのもあるかもしれませんが、しっとりしみじみとした印象です。音色のちがいから来るものもあるのでしょうか。ヌヴーはストラディヴァリ、デヴィートはガリアーノだそうです。どう思われますか? すみません。

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岡本 浩和

>ナカタ ヒロコ 様

ちなみに、ナカタ様がお持ちのドブロウェン盤は、本記事と同じオーパス蔵盤でしょうか?レーベルによって音の印象がかなり違うので、ご指摘の点については何とも断言できないのですが、芯と重みのあるこの演奏には、若さときびきびした雰囲気が醸されており、僕も同じような感想を持ちます。
あと、デ・ヴィートですが、これはTahra盤を所有しています。
https://classic.opus-3.net/blog/?p=26656
2枚組で、僕はメンデルスゾーンの方を好んで聴いておりましたが、ブラームスももちろん素晴らしいですよね。たぶんこれは指揮者の解釈が刷り込まれていて、ヌヴーとの比較でいうなら、ドブロウェンとフルトヴェングラーの格の違いが現れているのではないかと想像します。

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ナカタ ヒロコ

岡本 浩和 様

 同じ演奏家、同じ録音でも盤によってかなり音質が違うのですね。私の持っているのは、オーパス蔵版ではないようです。岡本さんが驚かれたほどの録音、オーパス蔵の復刻を私も聴いてみたいです。

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