リリー・クラウス ベートーヴェン 「エロイカ」の主題による変奏曲とフーガ(1953録音)ほか

天才作曲家の創造力の源泉たる霊感の所在を、ヨハネス・ブラームスが最晩年に明確に語っている。

「でもブラームス先生、イエスの神性は、作曲中にどう霊感を引き寄せるかということと、どんな関係があるのでしょう?」
「すべてにおいて関係があるのだ、若き友よ、じっと辛抱して聞いていればわかるだろう。今話しているこうしたことは皆、私が作曲しようとする時の精神と心と霊の過程について君が知りたがっていることと、直接関係がある。わかるだろう、モーツァルトやシューベルト、バッハ、ベートーヴェンといった真の大作曲家すべてが霊感を受けたあの力は、イエスに奇跡を行わせたのと同じ力なのだ。我々はそれを神、全能者、神聖なる者、また創造主などと呼ぶ。シューベルトは『全能者』(”die Allmacht”)と称していた。だが『名前が何だというのか?』シェイクスピアが実に適切に問うている通りだ。
それは、地球や、君や私も含めた全宇宙を創造された力であり、神に心酔した偉大なナザレ人が我々に教えた力でもある。その教えとは、現世において我々自身を築きあげるためにこの力が用いられるだけでなく、永遠の命を得ることができるというものだ」。

アーサー・M・エーブル著/吉田幸弘訳「大作曲家が語る音楽の創造と霊感」(出版館ブック・クラブ)PP18

いかにも知っているという口調だが、ブラームスは一体何がわかっていたのだろう?
果たして彼は本当に真理・真空とつながっていたのだろうか?
彼の言う霊感が同質の、同源のものであろうことは想像がつく。

アンドレ・シャルランによる名録音でリリー・クラウス。
クラウスの演奏は、低音を十分に鳴らし、その土台の上に煌びやかな高音、つまり旋律を流麗に運ぶものだ。時に力強く、時に静かに丁寧に。

師ロベルト・シューマンの主題による変奏曲作品9の暗い思念と、いかにも難易度の高い各々の変奏の天才。ブラームスの「方法」を知るにつけ、ベートーヴェン以上に推敲を重ねた彼の作品に愛着を覚え、その美しさに翻弄される。そして、軽々と奏される晩年の小品たちの可憐な魅力は、まるでモーツァルトのような「陽気さ」を秘め、クラウスの真骨頂。

ベートーヴェン:
・「エロイカ」の主題による変奏曲とフーガ変ホ長調作品35(1802)(1953録音)
ブラームス:
・ロベルト・シューマンの主題による変奏曲作品9(1957.3.25&26録音)
・ラプソディロ短調作品79-2(1957.3.25&26録音)
・間奏曲変ホ長調作品117-1(1957.3.25&26録音)
・カプリッチョロ短調作品76-2(1957.3.25&26録音)
・間奏曲ホ長調作品116-4(1957.3.25&26録音)
・間奏曲変ロ短調作品117-2(1957.3.25&26録音)
・ラプソディホ短調作品119-4(1957.3.25&26録音)
リリー・クラウス(ピアノ)

ベートーヴェン演奏も、ブラームス同様両手のバランスの均整がとれた、堂々たるシンフォニックなものだ。ベートーヴェンの内から溢れ出る希望の顕現である自信作をクラウスはまるで自分の作品であるかのように丁寧に想いを込める。特に、第15変奏の深い思念からフィナーレ・アッラ・フーガへの展開の妙味。

要するに、《変奏曲とフィナーレ・アッラ・フーガ》Op.35はこれまでの半生の頂点を成す作品である。それは、上記引用文に明らかなように、前触れのように小規模で地味な印象を与えるOp.34とペアになっていて、それらは創作も一連の過程のなかで進行し、ベートーヴェンの意識のなかでも一体となったものであった。これらがハイリゲンシュタット滞在の最大の所産である。
大崎滋生著「ベートーヴェン像再構築2」(春秋社)P518

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