シェリング ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管 バルトーク ラプソディ第1番ほか(1969録音)を聴いて思ふ

外は荒天。猛烈な風雨。
ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団第674回定期演奏会は中止。

ヘンリク・シェリングの奏でる音楽は、実に均整の取れた、安寧をもたらすものだ。
優しく温かい、和みの音色。
見事な野趣と洗練の掛け算。
バルトークのラプソディ第1番。1928年作曲。ヨーゼフ・シゲティに献呈。

バルトークの《ラプソディー》は、次の2点でリスト以来の「ラプソディー」の定型を踏襲している。まず、第一点はその構成、形式である。リスト以来、この「ラプソディー」という曲種では、まずゆっくりした部分(ハンガリー語で「ゆっくり」を表す「ラッシュー」という呼び名がある)があり、次に速い舞曲(「フリッシュ」)が来てそのまま終わる緩・急の二部分形式が一般的であったが、バルトークはここでその緩・急二部分形式を踏襲している。これは通常の音楽形式学の規範からすると、少し落ち着きの悪い形式である。
伊東信宏著「バルトーク―民謡を『発見』した辺境の作曲家」(中公新書)P150

民族的な、親しみやすい旋律の宝庫。音楽はどの瞬間もエネルギッシュだ。

そしてバルトークの《ラプソディー》は民俗音楽の旋律をほぼそのまま用いている、という点でもリストのラプソディーを踏襲している。もっとも、バルトークの方は、この民俗音楽の使い方という点では、もちろんリストよりもずっと周到で緻密である。
~同上書P151

そこには祖国への、あるいは民俗音楽へのバルトークの尊崇の念があったのか。

まず、驚くのは、これらの旋律が、そのかなり細かい装飾に至るまで、ほとんどそのまま用いられている、という点である。つまり、これらの旋律は、即興的な傾向が強くかなり偶発的な要因を含むのだが、バルトークは編曲にあたってその偶然的な要素まで含めて、原曲を尊重してほとんど手を加えていないのである。しかし、一方、作品全体が持つ洗練は、元の土くさい、素朴な民俗音楽とは、ほとんど無縁である。
~同上書P151

律儀で知的な作曲家の一面を映す美しい傑作である。

バルトーク:
・ヴァイオリン協奏曲第2番Sz.95(1937-38)
・ヴァイオリンと管弦楽のためのラプソディ第1番Sz.87(1928)
ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)
ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1969録音)

録音から50年。90歳で引退したハイティンク40歳のときの指揮は、シェリングのヴァイオリンに寄り添い、あくまで伴奏者として目立たず、謙虚にバルトークの緻密な音楽に向き合うものだ。何より温かい。

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