スメタナ四重奏団 ベートーヴェン四重奏曲第14番(1970.6録音)ほかを聴いて思ふ

弦楽四重奏曲は、スメタナ四重奏団が録音したものがあれば、それを選んでおけば間違いないと言っても過言ではない。アンサンブルは緻密、精巧でありながら決して機械的に陥らず、人間性豊かな音、そしてどの瞬間も瑞々しい。

スメタナ四重奏団はチェコの楽団です。チェコはアーティストを西欧に供給する国でした。
国家として音楽のアーティストを育て、海外に供給し外貨を稼ぐというスタイル。
スメタナ四重奏団は、特に技術が高いだけではなく、1曲仕上げるのに3年間毎日練習した上で録音していました。

彼らは新しい曲の録音に際して、1年目に人里離れた別荘で練習し、1年目の終わりごろからチェコの地方都市での演奏会の演目に加えます。
2年目はチェコの首都プラハ、3年目になると世界中を回るリサイタルでも演奏するようになります。
そして4年目になってやっとレコードに収録するという気の長いスタイルで演奏を育てていたのです。

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音楽表現という意味で非の打ちどころのない演奏が繰り広げられる。
ベートーヴェンの崇高なる後期弦楽四重奏曲が弾け、また沈潜する。陰陽の妙をこれほどまでに的確に表し得たカルテットが他にあろうか。

ベートーヴェン:
・弦楽四重奏曲第12番変ホ長調作品127(1971.6.8-9録音)
・弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調作品131(1970.6.22-29録音)
スメタナ四重奏団
イルジー・ノヴァーク(ヴァイオリン)
リュボミール・コステツキー(ヴァイオリン)
ミラン・シュカンパ(ヴィオラ)
アントニーン・コホウト(チェロ)

全7楽章がアタッカで奏される四重奏曲嬰ハ短調作品131の、マクロ・コスモス的拡散とミクロ・コスモス的収束の交替の妙技。極めて自然体で流れる音楽の素朴な美しさと一体感は、晩年のベートーヴェンの至純の精神の証。特に、第6楽章アダージョ・クワジ・ウン・ポコ・アンダンテの安息に感涙(僕はこの旋律を聴くと、冬木透が作曲した「哀惜のバラード」をつい思い出してしまう)。

一層素晴らしいのは、四重奏曲変ホ長調作品127!!!
どこまでも血の通った真のベートーヴェン。第1楽章序奏マエストーソの意味深い音調、そして主部アレグロに入っての前のめりの興奮。第2楽章アダージョ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・カンタービレは、第1ヴァイオリンによる主題のあまりの美しさに感応。刺激的である。そして、曲想豊かな第3楽章スケルツァンド・ヴィヴァーチェを経て、終楽章の踊るようなリズムのダイナミズムに思わず心が躍る。

極めつけだ。

仕事に追われていましたのと、ずっと病気に悩まされていましたので、あなたの4月6日のお手紙に御返事もできずにおりました。もっともその頃は四重奏曲(嬰ハ短調)はまだ出来上がっておりませんでしたが、今は完成しております。
(1826年5月20日付、ショッツ・ゼーネ宛)
小松雄一郎編訳「新編ベートーヴェンの手紙(下)」(岩波文庫)P186

病癒えたベートーヴェンの希望の音楽。

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