ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管 ショスタコーヴィチ第4番(2013.6Live)を聴いて思ふ

ユネスコ憲章前文冒頭。

戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。
相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信を起こした共通の原因であり、この疑惑と不信の為に、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。

個人の心の静けさの醸成こそが、争いを撲滅する鍵だ。
荒れ狂う音の嵐はいかにも戦争を喚起するが、虚心に耳を傾ければ、音楽に内在する静けさ、真の平和を希求する作曲家の心を見つけることができるだろう。

第1楽章アレグレット,ポコ・モデラート—プレスト冒頭から血が通う。
巨大な音塊に圧し潰されそうになるも、混沌の中にある、こなれた形式美に魂から惹かれる。
想像を絶する音楽の展開と転回に、いつも以上に度肝を抜かれる。
ドミトリー・ショスタコーヴィチはもちろん稀有な天才だ。
一方、ワレリー・ゲルギエフも、世間の評価がどうあれ、またどれほど才能を無駄に消費しようとも、間違いなく天才だ。

そのことは、交響曲第4番ハ短調作品43を聴けば、即座に理解できる。

・ショスタコーヴィチ:交響曲第4番ハ短調作品43
ワレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団(2013.6.24-27Live)

第2楽章モデラート,コン・モトでは、タイム・トリップしたような懐かしさが込み上げる。剛毅な音の大伽藍に挟まれた一服の清涼水のような、といえば聞こえが良いだろうか、ショスタコーヴィチ二枚舌的舞踏が、不思議な安寧をもたらす。
最重要は、終楽章ラルゴ—アレグロ。
音楽によってあらゆる人間闘争の浮き沈みと動静が表現されるが、何といっても終結部の壮大なクライマックスが素晴らしい。
金管群のコラール、木管群による終楽章主題の回想、さらにホルンによる終楽章主要主題の弱奏。チェレスタの儚い音が、浄化と平穏をもたらす。やはりすべてが調和に向かっていることの証だ。

偉大な音楽の力・・・。あるいは真の音楽が持つ偉大な力、魔法の力というのは、無限と言ってもいいでしょう。しかし、バッハやベートーヴェンらの偉大な音楽ですら、人間を完璧に守ることはできない。戦争や恐ろしい出来事から・・・。あるいはばかばかしい政治的、盲目的な政治的プログラムから。先見の明のない盲目的な政治家たちは、人間社会に紛争を引き起こします。それは最も恐ろしい紛争です。
(2017年12月2日のインタビューから)

いかにも暴力的な大音響に垣間見える静かなハーモニー。
ドミトリー・ショスタコーヴィチの意義を思う。

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