ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団東京オペラシティシリーズ第112回

ジョナサン・ノットは熱狂を創り出すことを心得ている。
白熱の「ジュピター」交響曲。
ダイナミクスの幅は広く、漸強漸弱の妙。また、弦楽器はヴィブラートを極力抑え、管も打楽器もアタックを際立させる方法で、聴衆の心を射抜く。いつぞやの「ダ・ポンテ3部作」の名演奏で魅せたのと同じく、彼のモーツァルトは実に動的であり、華麗な響きを保持する。

モーツァルトが聴いたら、さぞかし吃驚したのでは?
第1楽章アレグロ・ヴィヴァーチェから堂々たる風趣。第2楽章アンダンテ・カンタービレは、必要以上に粘らず、あっさりと歩を進めていく。しかし、それがまた泣けるのだ。そして、高雅というより雄渾なメヌエット・アレグレットを経て、歓喜の終楽章モルト・アレグロに挑む様。ノットの身体は弾け、揺れ、オーケストラを果敢に鼓舞する。フーガが大宇宙の鳴動の如く響く様子は、まさに生命の謳歌であり、これをもって彼の最高傑作とする。時にオーケストラの響きが濁る瞬間もあったが、これほど熱い演奏はあまりない。晩年のモーツァルトの、生きんとする希望が満ち溢れる音楽に、僕は手に汗を握った。

東京交響楽団東京オペラシティシリーズ第112回
2019年11月23日(土・祝)14時開演
東京オペラシティコンサートホール
荒絵理子(オーボエ)
グレブ・ニキティン(コンサートマスター)
ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団
・リゲティ:管弦楽のためのメロディーエン
・リヒャルト・シュトラウス:オーボエ協奏曲ニ長調
休憩
・モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」

前半にリゲティとリヒャルト・シュトラウス、後半にモーツァルトという粋なプログラム。
全体の印象は、強いて言えば「拡がる幻想」。リゲティのメロディーエンは、実に空虚な旋律に支配された無極の音楽。何と深遠な世界がそこに拡がることか。
一層素晴らしかったのは、荒絵理子を独奏に据えたリヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲!最晩年のシュトラウスの、好々爺然とした(?)透明な名作が、何と希望に満ちて響くことか。第1楽章アレグロ・モデラート冒頭から荒の独奏は流麗で、シュトラウスの紡ぐ光明をうまく表現する。また、子守歌のような第2楽章アンダンテに心から癒され、終楽章ヴィヴァーチェ―アレグロでは、何よりカデンツァの美しさに感激。
打楽器の排された、静けさに溢れる、晩年の諦念が刻印されたであろう作品の質感は、オーボエの枯淡の音色によってこそ生きる。ノットはひたすら伴奏に徹しつつも歌う。荒は、その音の海で存分に泳ぐのだ。

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